第10回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
平成30年3月15日
脳が若返るトレーニング科学
関西福祉科学大学 教授 学長補佐
重森 健太 氏
講演要旨 |
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認知症は、歳をとってからいきなり発症するものではなく、若い時期からの生活習慣や運動習慣も強く影響します。 本講座では認知症のない時期に「どのような生活を過ごせばよいのか?」また「どのような運動が効果的なのか?」など、「脳トレーニング術」を科学に基づいて紹介したいと思います。 脳が若返るコツを実際に体験していただきながら進めていく予定です。 |
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1.老化を受けやすい脳の領域 ・脳には前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉の4ツの領域があり、使わずにいると老化する。一番老化の影響を受けやすいのは前頭葉で二つのことをする時によく使う。前頭葉が老化すると二つことや複雑なことをするのが苦手になり、面倒くさくなったり、億劫になったりする。 ・認知症の7割を占めるアルツハイマー型認知症は側頭葉奥の海馬から低下する。海馬は記憶、見当識(場所、時間)を認知する期間で海馬が低下すると時間がわからなくなったり、現在、どこにいるのかわからなくなる。 ・アルツハイマーは古い器官から低下すると言われている。海馬は古い器官。他に嗅覚も古い器官でアルツハイマーの初期症状に匂いがわからなくなることが出てくる。 2.アルツハイマー型認知症の世界的危険因子 ①タバコ=血管が昵弱になる。 ②不活動=運動不足。 ③うつ=アルツハイマー型の初期症状としてうつ状態になる。 「健康的な生活を送ることがアルツハイマー型認知症を予防するキーポイント」 3.認知症予防 ・認知症の定義(DSM診断基準)「認知症とは、いったん発達した知的機能(学んだこと)が低下し社会生活(コミュニケーション能力)や職業生活(役割)に支障をきたす状態」となっている。 ・知的機能低下だけでは「認知症」と診断されないが、認知症は進行している。社会生活、職業生活に支障をきたして初めて「認知症」と診断される。 ・知的機能低下の段階で手を打てば、脳の低下は抑えられるが、放置しておくと認知症に進んでいく。 ・認知症は最初に対人関係が面倒、億劫等うつ症状が現れる。この段階で運動を始めれば脳機能が回復するケースが多い。しかし放置していくと「被害妄想」が出て、家族が初めて気づくがこれはかなり進行した状態。 ・「知的機能、日常生活の低下」「行動障害の上昇」が交わったところから急に介助が必要な状態となりこの段階で運動が効果的とは言えず、適切なケアーが必要となる。また、薬を飲む、タクシーに乗る等手段的日常生活が低下するのも、認知症の初期症状のサインの一つと言える。 ・今、話題の「軽度認知障害」=認知症でもなく、健康でもないグレーゾーンの状態で、健忘型と非健忘型がある。脳の4領域の1領域のみの機能低下であれば、治る可能性が高い。 4.認知症診断技術 ・現在将来認知症になるかもしれないと、察知する診断技術が出てきている。 ・約40年前にCTやMRIが日本に入ってきた。MRIで見ると、正常な脳は細胞がぎっしり詰まっているが、アルツハイマーの脳は細胞不足で死んでしまいスカスカになっている。 ・MRIやCTでは認知症になった状態は診断できる。細胞が死滅するのには 長い時間がかかるのでMRIに「VSRAD」と言うソフトを入れて海馬の状態をみて早期に 認知症診断をしていくことが多くなってきている。 ・現在更に信頼性の高い「脳の血流の状態」を見るSPECT検査。酸素が行き届いている脳は赤 黄は普通、青は酸素不足の状態となる。 ・軽度の段階で酸素不足に気づき、運動で酸素を海馬に送り込むことにより、予防ができる。この運動方法を後ほど行う。 ・タンパク質の一種のアミロイドβが脳にたまると7年後に認知症になることがわかってきた。PETを使い測定するが、早い人では30年前から予測できるようになって来た。しかし高額なため、医療現場でなかなか使用できていない。 ・血液中のアミロイドβを測定する研究も進んでいる。これが医療現場で使えるようになると、早期の段階で認知症を予防できる時代が来る。又、運動することによってアミロイドβのたまるのを防ぐことがわかってきた。 5.認知症予防に効果的な余暇 ・研究結果でベスト3は、 3位:ボードゲーム(将棋、囲碁、麻雀等) 2位:音楽活動 1位:ダンス となっている。この3つには①ステップアップがある②常に違う刺激があるという共通点がある。 ・ウォーキングは認知症予防に効果はあるが、ゆっくり歩いては効果が低い。海馬に酸素を送り込むためには運動の強さが必要となる。 ・日記も工夫次第で脳の活性化のトレーニングになる。例えば3日前の日記を書くことと習慣にすれば、脳に刺激を与えることができる。脳は刺激を与えないと活性化しない。 ・脳が若返る基本原則①刺激=目標を持つ ②数字を提示する(目標を達成度合いを測る) ③「させられている思考」ではなく「したい思考」。 ・学生を使って前頭葉の血流を測定すると、前頭葉は興味のないものをさせると活性化しないが、興味のある事には活性化する。「したいことをやる」これが一番大事と言える。 6.運動が脳に与える影響 ・運動が脳に与える影響は ①脳の血流をよくする ②神経細胞(BDNF)の結びつき強化する ③感覚器への刺激が挙げられる。 この3つは運動による脳トレに効果。 ・運動するタイミング 朝=体内時計調整、基礎代謝をあげ、ダイエットに効果的 昼=集中力を途切れた時、スイッチを入れる効果 夜=成長ホルモン分泌、筋力アップに効果 食前=ダイエット効果、食後=筋力アップ効果がある。 ・セロトニンとメラトニンと言うホルモンがある。運動すると爽快な気分になる。これはセロトインが分泌されるからだ。セロトニン分泌には15分の運動が必要。10分の運動ではしんどいだけで分泌されない。 ・メラトニンは眠気を誘うホルモンだが自然に出てこない。セロトニンが増えることでメラトニンが分泌される。日中、良く運動することがいい睡眠に繋がる。 7.脳の老化防止トレーニング ・認知症予防には前頭葉と海馬の老化を防止することが必要。この2つの老化防止の運動を日常の運動でとり入れる方法を体験して頂きます。 <前頭葉を鍛えるトレーニング> ①ストループ課題=赤、青、黄、赤計36文字、カラーで書かれてある。文字の色を出来るだけ早く読む(例えば緑色で赤と書いてあれば「みどり」と読む)トレーニング。 ・これは2つの課題を同時にこなす難しいトレーニングで、前頭葉を鍛えるには効果的と言われてきた。 ・このトレーニング(机上で出来るトレーニング)では血液は脳に流れるが、効果なしとネイチャーで発表され、2010年頃から運動を使ったトレーニングが主流となって来た。 ②運動を使った前頭葉トレーニング ・右手=真っすぐ、左手=三角にする等 ・二重課題=前頭葉の特徴で二つのことやると、難しさを感じる。前頭葉が難しいと思っているうちは、前頭葉は活発になっている。できるようになったら、脳トレーニングにはならない。できなくても難しさを感じるトレーニングが前頭葉に血液を流してくれる。 ・他にも ㋑トントンスリスリ体操=膝に手を置き、片方はトントンたたき、もう片方はスリスリさする運動。途中で左右の手を交替する。これを繰り返す。これを空中でやるともっと難しくなる。拮抗運動になり、前頭葉にいい運動。日常生活の中で取り入れてもらえればいい。 ㋺じゃんけんウォーキング=ウォーキングにじゃんけんを取り入れる。例えば前の手が勝ち、後ろは負けと言うふうにじゃんけんをしながらウォーキングする。途中、勝ち負けを交互にしてみたり、歩く速度を速めたりする。お薦めの運動。 ・70歳代27名にこの運動を毎日30分間週5回6か月間続けた結果、血液中のアミロイドβが減り、前頭葉の評価も上がった。 ㋩数字遊びトレーニング=例 足踏みしながらそれぞれ1から順番数字を言い、3の倍数を言った人は手を叩く。これを100まで数え終わったら、100から逆に言い、5の倍数に当たった人は手を叩く、今度は1~100まで数え、3と5の倍数に当たった人が手を叩くトレーニングで国が推奨している。 ㋥しりとりトレーニング=足踏みしてしりとりを行いながら。自分の言ったものも含め前の人の答えたもの3ツ答える。これも国が推奨している。 ・前頭葉を鍛えるには、運動をしながら複雑なことやることが一番効果がある。これを生活の中にとりいれて頂きたい。 ・前頭葉を鍛える秘訣 ①複雑なことを取り入れる。 ②運動と頭の課題を組み合わせる。 ③拮抗運動。 <海馬を鍛えるトレーニング> ・海馬は小さく、古い器官でアルツハイマーの初期に最初に低下する。 ・海馬が低下すると場所や時間がわからなくなる。徘徊が起こる。 ・海馬を鍛えるには海馬に酸素を送り込み大きくすることが重要。 ・運動以外で海馬を鍛える方法としてロンドンのタクシードライバーの例がある。ロンドンの道路は複雑で多岐にわたっている。ロンドンでタクシードライバーを務めた人達の海馬は同世代の一般人より、大きかった。日常生活で海馬を鍛えることができる。ウォーキングも毎日同じ道を歩くだけではなく。色んな道を開発して、ロードマップを作る等工夫すれば、尚、効果が上がる。 ・ただ現在、海馬を鍛えるには運動が一番と科学的に言われている。 ・20107年イリノイ州立大学で70歳代の人を対象に①ウォーキングをしている人②ウォーキングをせずストレッチをした人のグループに分け1年間調査した。その結果ウオーキングングループの人は海馬重く、ストレッチのグループは軽くなっている、即ち老化の現象を止めることが出来なかったと言う研究結果が発表された。ウォーキングをすると老化に逆らって海馬が増えると世界で最初に証明された。以前、モルモットを使った研究発表はあったが人間で運動が有効と証明され「有酸素運動をしっかりやると、海馬が大きくなる」世界中に一気に広まった。 ・2010年にもう一つ「有酸素運動をすると、血管をつよくする細胞VEGFが増え、心臓、肺を強くするだけでなく、海馬や前頭葉の血管VEGFも増え、認知症になりにくい身体づくりができる」と言う論文が発表された。この二つの論文により有酸素運動が世界中に広まった。 ・ただし単純に運動するだけではなく、一定の運動量をこなさないと海馬に酸素は行き届かない。 ・汗をかく有酸素運動を1日連続30分、週3回やらないとVEGFが海馬まで流れ込まない。30分の運動は結構難しいが、最初は15分からでも始め、段々増やして行くようにすればいい。 ・いくらウォーキングをしているといってもゆっくり歩いていたら、健康にはいいかも知れないが、脳を鍛えることはできない。 ・心拍数を意識することで有効な運動量を確認することが出来る。 ・目標心拍数=(220-年齢)×0.7(運動量)とする。即ち60歳の人であれば112拍/分を目標心拍数として運動の後に心拍数をはかり、有効な運動であったか、どうか知ることができる。何れにしても心拍数を意識して運動することが必要。 ・心拍数のとり方の演習…左手親指の下手首のあたりを3本の指で測定。 ・運動演習…その場で3分間かけ足踏みする。これで大体目標心拍数に到達する。この時の疲れ具合を体験して欲しい。 ・終了後心拍数を測定する。 ・目標心拍数に到達するとややきついと言う状態になる。この感覚を覚えておいて欲しい。 ・運動さえすればいいと考えられているが、そうではない、運動の質が問われる。ややきついと言うレベルまで運動しないと海馬を鍛えることはできない。目標心拍数まで到達しないと海馬の血液量は増えない。 ・心拍数を意識して、運動の質、やり方、速さを変え工夫して効果を挙げるようにすることが必要。 ・モンキーウォーキングは効果が高い。但し心臓の悪い人は避けること。 ・日常生活で心臓を動かすことを心がけて欲しい。心臓を動かす方法は ①速度を速める。 ②おもりを使う。 ③筋肉を収縮させる。 これによって目標心拍数に到達させることができる。自分にあったやり易い方法で取組んでください。 ・筋力トレーニングはゆっくり心拍数もあがるし、筋力もつく。少ししんどいなぁと思う筋力トレーニングによって海馬も大きくなる。 8.本日のまとめ ・認知症予防には若く元気なうちから前頭葉、海馬を鍛える。 ・生活習慣…①血管に悪いことは避ける。②運動不足を避ける。」 ③うつ状態に早く気付く。 ・認知症と言われなかったといって安心しない(知的機能低下、社会生活、職業生活に支障の3つがなければ認知症と診断されない) ・うつ症状や日常のささいなことが出来なかった時点で運動すれば回復の可能性が高い。 ・認知機能が低下しても脳の一領域の老化であれば、運動することで回復の可能性が高い。 ・血液に酸素を送ると細胞が復活する。 ・血中のたんぱく質の量で7年前から認知症予防の可能性を秘めている。 ・認知症予防には刺激が必要。目標を持ってしたいことをする。 ・認知症予防に運動の価値は高い。 ・前頭葉を鍛えるには困難なことを運動に取り入れて行う。 ・海馬を鍛えるには運動の強さ=目標心拍数に到達する運動を心がける。 もっと詳しいことを知りたい方は自著「走れば脳は強くなる」をお読みください。 |
平成30年3月 講演の舞台活花
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