第7回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
平成28年12月5日

朝鮮半島情勢
〜朝鮮半島の未来〜




龍谷大学社会学部 教授
李 相哲 氏

  

講演要旨
     誰が北朝鮮の統治者なのか?
北朝鮮を動かす力の源泉はどこにあるのか?
北朝鮮問題の根源はなにか?
今後、朝鮮半島はどうなるのか?

 
   

1.三つの祖国への想い
 ・両親はともに朝鮮半島から中国に渡り、中国で結婚し7人の子どもを授かった。 
 ・中国暮らしはシベリアに近い田舎で冬には−30℃にもなり、厳しい環境であったが肥沃な土地で食物に不自由はしなかった。村の水路は日本人移民が作ったもので村人は「水は日本人のお陰」と感謝した。
 ・1960年代、北朝鮮は優秀な国で、中国人が北朝鮮に憧れていた時代があった。
 ・母は14歳で中国に渡り、78歳で亡くなったが、中国語は一切話さず、故郷の話ばかりし、北朝鮮のラジオを聞いていた。その影響で北朝鮮のことを知ったが、当時はまさか、自分が北朝鮮の研究をするとは思っていなかった。
 ・日本映画「絶唱」等日本文化に触れ、私も「いつか日本に行ってみたい」と思った。・ハルピンの記者時代に「残留孤児」の手伝いで日本にくることになった。14日のつもりであったが、日本が大好きになり、以来30年にもなった。

2.北朝鮮研究の原点
 北朝鮮がどのような国か?−歴史を遡らないと見えてこない−
 ・70年代後半、北朝鮮は韓国と互角の外見的には優秀な国と評価されていた。
 ・日本が無条件降伏後、ソ連のスターリンの後押しもあり、金日成が北朝鮮の国家元  首に就いた。これが悲劇の始まりと言える。
 ・金日成自身、大尉に過ぎず偉人ではなかったが、人民の心を一つにし、統治のする為数々の伝説を作り挙げ神格化した。これが今日の北朝鮮にも続いている。
 ・1956年、北朝鮮軍幹部が金日成打倒を画策したが、権力闘争でまけ、中国に逃れてきた。その中の、金剛氏と言う人物が、後年「回顧録を書きた」と私の友人を通じて話があり太源に会いにいった。
 金日成が如何に悪い人間であるか等様々な話を聞き、ビデオにも収めた。当時、中国で発表は許されず「何れ時期がくれば、公表する」言う事で、原稿は持ち帰らずに、日本に戻った。
 ・2000年頃、日本で北朝鮮のことが報道される度に私は「日本人は北朝鮮を知らない」と思った。日本では好意的に報道されていたが、我々は既に北朝鮮で何がおこっているか、知っていた。
 ・1997年、金日成死去後、核問題が浮上し、北朝鮮から核についての、合意声明文が出されたが「騙されているな」と思った。日米韓では国同士の約束は守られるべきものだが、北朝鮮では時間稼ぎの戦術に過ぎなかった。
 ・皆、北朝鮮をしらなさすぎる。そのようなもどかしさがあって、北朝鮮研究にのめりこんだ。

3.北朝鮮の本質
 ・2000年韓国金大中大統領が「太陽政策」を唱えたが、これは全くの茶番で「北朝鮮を理解していない」としか言いようがない。
 ・北朝鮮とはどういう国か→「力しか信用していない」。話合い等生温い交渉では全く説得できない。
 ・この歴史的な証明として「拉致問題」がある。米国ブッシュ大統領が北朝鮮を「悪の枢軸」と批判し「戦争も辞さない」と強い態度に出た。これを恐怖に思った金正日が小泉首相に仲裁を依頼し、その見返りとして日本の拉致被害者を帰した。北朝鮮が西側諸国に屈した唯一の出来事である。
 ・その後、米国が中東に手を取られ、アジアまで手が回らなくなったのをいいことに北朝鮮が横暴な態度をとっているのが現状だ。

4.北朝鮮は何故、核にこだわるのか?
 ・北朝鮮は朝鮮半島、韓国を支配下に置くのが、最大の目的である。
 ・北朝鮮の核開発は、未完成とみられているが、米国高官は核のミサイル搭載技術完成は時間の問題と捉えている。北朝鮮も開発スケジュール沿って、開発に拍車をかけている。
 ・各国は朝鮮に経済制裁を行っているが、中国との貿易のお蔭で、全く困っていない。

5.北朝鮮と中国との関係
 ・「北朝鮮とは血の血盟」と言われる程、親密な関係にある。
 ・中国は経済制裁に本気を出していない。中国が本気を出せば、北朝鮮は三ヶ月と持たない。
 ・金日成時代の中朝関係は世界の如何なる国より親密で、金日成は37回中国を公式訪問した。毛沢東と並んで、中国の幹部を接見するほど、毛沢東は金日成を大事にした。周恩来首相の手術の情報も逐一伝える程親蜜であった。
 ・1980年代、中国は「改革開放」に向うが、社会主義国から批判があった。
 ・1982年9月金日成訪中時に、ケ小平が「中国は解放改革で豊かになった。北朝鮮も導入してはどうか?」誘った。金日成も承知し「息子の金正日を派遣する」と約束した。当時北朝鮮は金正日が全権を握っていた。
 ・1983年6月 金正日が訪中。その時の金正日の横柄な態度に中国の通訳が「とてもまともな指導者とは言えない」と不安を感じた。
 ・ケ小平と会談時、金正日は改革開放には全く興味がなく「北朝鮮が韓国と戦ったら中国は支援してくれるか?」質問した。ケ小平は言葉を濁した。
 ・金正日は帰国後、党大会で中国を痛烈に批判した。この情報は、中国にも伝わり、   これを聞いたケ小平は「この人物は中国の将来にとって、非常に危険な人物となるのでは」と呟いたとの逸話が残っている。
 ・金正日は中国が大嫌いで、1983年以来、ケ小平が死ぬまで、つまり2000年まで中国に行っていない。金日成時代は兄弟の様な関係であったが、普通の二国間関係に変わった。金正恩に至っては、就任後5年間一度も中国を訪問していない。

6.中国は北朝鮮をどうしようとしているのか?
 ・北朝鮮は中国と1300km接しており、両国は唇歯の関係にある。南北朝鮮統一したら中国は困る。北朝鮮は、自分が少々悪いことをしても、中国は自分らを放棄しないと読んでいる。
 ・中国の朝鮮半島外交三原則
  @非核化…米国、韓国も核を持ち込むな
  A平和と安定…北朝鮮現政権の崩壊は好ましくない
  B話合いによる問題解決…20年間、話し合ってきたが進歩がない
 ・北朝鮮が核武装を備えると、追い込まれた現状、指導者の精神状態からして、使用する危険性は大いにあり得る。
 ・北朝鮮上空で核爆発を起こすという「実験」でもしたら、韓国が全滅する。朝鮮半島で核爆発が起こったら、勝者は誰もいない。北朝鮮の核開発施設は老朽化しており、いつどうなるか、予断を許さない状況で、中国も頭を痛めている。
 ・中国は北朝鮮が崩壊するより、核を持ってでも存在する方がいいと思っているのではないか?危惧している。

7.今後の東アジア・朝鮮半島情勢
 ・中国はアジアの主導権を握りたい。その絶好の道具が北朝鮮と考えている。
 ・韓国は高高度防衛ミサイルTHAADを米国から導入しようとしている。中国はこれに反発し、経済制裁を検討し中韓関係は悪い状況にある。
 ・朴政権は安保問題に関しては、中国と一線を画している。
 ・日韓関係は見えないところで連携し、良好な関係にある。政権が代わっても日本との条約は破られることはない。破るようなことは国際社会で許されない。
 ・米国トランプ次期大統領の対北朝鮮政策が見えない。
 ・「金正恩斬首計画」と言うものがある。米国ブッシュ大統領の対イラク戦争の教訓で「軍事力を破壊するだけでは意味がない。独裁者の首をとったら根本的に解決する」と言う考え方である。
 ・東アジア、朝鮮半島は現在重要な局面にあり、目が離せない。




平成28年12月 講演の舞台活花



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