第3回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
平成26年7月17日
食の安全・安心の知識
〜PPKを目指すために必要な食の知識〜
鈴鹿医療科学大学大学院 副学長
長村 洋一 氏
講演要旨 無添加、無農薬食品が最も安全な食品であると考えている方の問題点を指摘し、もっと大切な食品の本質の問題と、熟年者の食生活のあり方がどれほどピンピンコロリ(PPK)に向けて役立つかの話をさせていただきます。 |
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はじめに 過分なご紹介をいただきました。皆様と同じ世代に属しています私がこのようにお話しするのは若干おこがましいように思いながらも、やはり必要なことと思ってお話しさせていただきます。 我々は農薬や食品添加物などの化学物質に対して敏感な世代でありますが、そのトラウマにとらわれるあまり大事な健康と食を見失っているのではないかということをお伝えしたいと思います。 1.平均寿命より大切な健康寿命 健康寿命とは健康上の問題で日常生活が制限されずに生活できる期間です。平均寿命との差は介護などを受ける期間になります。この間多大の医療費が費やされます。大阪府の健康寿命は平成22年で男性69..39、全国45都道府県中44位、女性は72.55で45位となっています。 ”病気でない”ということは、皆様と周りの人たちの心と懐を豊かにします。そして、日本の大きな問題である医療費の削減につながります。元気で長生きをしている人は、最後はスーっと消えるように死んでゆく、PPK(ピンピンころり)の人が多くいます。 お金は医療費よりも生活の楽しみに使いたい、そのためには、病気にならないことです。現時の日本の医療費は37兆円、間もなく40兆円に及ぼうとしています。そして深刻なのは2025年問題で 団塊世代の健康寿命が急速に尽き始める ということです。つまり、医療費を多く使う人口が急増します。実際、無い袖は振れない、姨捨山は現実の世界になるのではないでしょうか。 ところで、日本人は何が原因で死んでいるのだろうか?その4分の3を占めるのが、癌、悪性新生物、心疾患、肺炎、脳血管疾患です。これらの死因は食生活と非常に関係が深いの です。いきいき生きるには健全な心の持ち方と食生活、それに適度な運動が大事だと言われています。食の効用は想像以上のものだと最近の研究で明らかになっています。 2.食生活は健康にどのように影響するか 世界がん研究基金が2007年に出したがん予防の10ヵ条はほとんど食の問題のみ
ただ、現在服用中の方は血圧の薬を止める必要ありません。脳梗塞や心筋梗塞の発生を抑えることができるからです。しかし、減塩がもたらすより重要な効果はピロリ菌による胃がんを防ぐという秋田県の調査結果です。 このようにして健康寿命が延びるか延びないかで費用の計算をしますとその差は結果的に約3,280万円になります。 98歳まで長生きした義母がいますが、彼女の生活から見えてきた長寿の秘訣は、好奇心を旺盛にして頭を絶えず使うこと、精神的ストレスのない生活、腹八分目でバランスの良い食生活、全身を無理のないレベルで毎日よく動かすこと、老後にはむやみに病院に行かないことです。 さて、腹八分目の意義を見直したいと思います。近年、長寿遺伝子が解明され始め、「Science 325, 201 (2009)」 によると、カロリー制限が赤毛サルの病気の始まりと死ぬことを遅らせるという記事を発表しました。つまり病気になりにくいことと寿命が延びるということです。一方「Nature 489, 318 (2012)」によって、カロリー制限は赤毛サルの寿命を長くしなかったと発表しました。これらは一見矛盾しているように見えますが、このことからカロリー制限はしても低栄養にしてはいけないということがわかります。「ばっかり食」をする低栄養と、バランスよく食べる低カロリーとを区別する必要があります。バランスよく、少なく食べることが大事です。食の過不足と偏りは病を創り、均衡よき食は病と未病を癒す、と言えます。藤田保健衛生大学の東口教授は、がん患者は多くの場合がんで死んでいない、栄養が取れなくて死んでいる、と言っています。 とは言っても、食生活を変えるというのは簡単なことではありません。私も「十か条」を守るのには相当な苦労と努力を必要としました。しかし減塩に慣れると塩気の多い食べ物は不味いと感じたり、後味が悪かったりします。食塩の使用が少ないと素材のうまみがよく出ます。野菜のうまみや甘味は調味料が少ないほど感じるものです。 3.食品は安全な物であるという消費者の誤解 食品とは「人や動物の栄養となりうるあらゆる食用となるもの全般」となっている。一頭の牛を見ておいしそうだとは思わないものですが、一切れになった牛肉はおいしく食べられます。しかし牛を屠殺して食べていることは否定できません。では菜食ならいいのでしょうか。生野菜は人間の健康のことを考えて食べられるために生えているわけではません。我々の食品とは、人間以外の生物である。ここに食品の安全性問題の根源があるのです。 この食品が安全だと思うのはとんでもない人間の思い上がりだと思います。生野菜は若い女性の美を保つために生えているのではない。自分の足で逃げることのできない野菜には生き延びるために多数の自然の発がん物質や殺虫物質が入っています。無添加、無農薬食品を取らないと危ないぞ、と言って運動する方たちはこのことを知らずにそういう活動をしているのか、知っていて無視しているかのどちらかです。野菜が危ないと言っているのでは決してありませんが、事実を直視する必要があります。野菜から作られる健康食品も量を間違えれば大変なことになることはあります。しかし人参に含まれるカフェサンは発がん物質のグループでは2Dに分類されているもののアメリカのNIHは膨大な疫学調査の結果、このカフェサンを含む人参を緑黄色野菜として癌を防ぐもっとも重要な食品として挙げています。こういうものが入っている人参ですがどんどん食べなさいということです。入っているから食べてはいけないということではありません。 4.誤解を増長させる学者や評論家と業界 無添加食品、無農薬食品、有機栽培の食品を摂取することは、こと健康という点ではあまり関係がないことも明らかになってまいりました。なんとなくいいように思うのは個人の好みの問題であって科学的には何の問題もありません。無添加のものが安全で安心だというのは大間違いであります。しかし、食品添加物の安全性と関係ない嫌がらせを演出する学者や自称専門家がいるのも事実です。感覚的に気持ちが悪いと思わせるのです。 食品添加物の使用許可量はADIから決められています。ADIとは膨大な実験結果をもとに、一生の間毎日摂取しても全く問題が発生しないと決められた量です。ここ30年間このADIに準拠してきたものに発がんなどの事件は一つも起こっていません。高濃度のものを大量に摂取すれば危険ですが、実際の使用量は最大無作用量のさらに100分の1にADIで設定されています。一生それを摂っても何も起こらないという安全量です。 「ラーメン、餃子でがんに、おにぎりで成長障害」などの記事を載せる雑誌がありますがナンセンスであり、恐怖心をあおるだけでこれには愚かにも一切量の概念がありません。微生物の繁殖を抑え体内では分解されるアルギン酸も大量に摂れば害になりますがおにぎりに使われている微量なら益こそあれ害は一切ありません。このような人は経済の世界で百円と百ドルを混同するようなもので、この問題を論ずる資格はありません。食品添加物でとんこつスープを作るパフォーマンスによる脅しもありました。これは単なる嫌がらせです。この後に「自然食品」なるものを売り込む言葉が続くのです。焼肉は、死後10数日経過した死体の肉の一部を切り取って焼いた物です、と表現するのも間違いではありませんが、食べる人を気持ち悪がらせるための悪意としか言えません。 消費者の無添加信仰を満足させるために表示の必要な保存料より厳密に言えば毒性はやや強いが表示の必要のないものを使って無添加と表示するというようなことも起こります。これでいいのでしょうか。科学的に問題のない事象を感覚に訴えて排斥した人類の大きな誤りがありました。感覚では地球が回っているとは思えません。そういう感覚がコペルニクスを火あぶりにして、ガリレオを裁判にかけた。化学物質は危険だというのは大きな科学的な誤りです。食品添加物も化学物質として科学的に判断しなくてはいけません。 5.こんな考え方もあります 食で病気が快復、または寛解すると言っている医師や学者もいます。これを権威ある医学会は、あまり認めておりませんが、ここには、明らかに今後の研究に期待される要素があります。この人達の主張や方法論にある共通点があります。それは、低カロリー、減塩、多量の野菜摂取などです。年寄りの半日仕事、無理のない運動も大切です。 【結 論】 目標をたて、希望を持って何かに絶えず挑戦しよう。食にあっては、まず、腹八分目 そして、バランス良く適度に体を動かし、むやみに医者に行くのをやめよう |
《講師未見承》
平成26年7月 講演の舞台活花
活花は季節に合わせて舞台を飾っています。
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