第3回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
平成24年7月19日
花いっぱいのまちづくり




大阪府立花の文化園 園長
竹田 義 氏

 

講演要旨

日本には大小さまざまな植物園が全国各地にあります。ローカルで小さな植物園である花の文化園の特長、植物園として花の街づくりにどのように取り組んできたのか、何をするべきかを園の歩みも含めてお話致します。
 

はじめに
 私は、学校を卒業してから、12年間、京都府立の農業試験場に勤務し、主に砂丘地での園芸作物の栽培に関する研究をしておりました。その中でチューリップの試験栽培をしているうちに野菜より花の研究に興味を持ちました。
 その後、京都府立山城園芸研究所に依願転勤して、本格的に花の研究をしました。大阪鶴見緑地で開催した花の博覧会で、品評会の審査員をした時に「花の文化園」が河内長野市に開園したことを知り、早速「花の文化園」を見に行きました。開園間もないこともあり期待はずれでしたが、その後「花の文化園」で花をする人材を募集していることを聞き応募し、運よく採用されました。以来21年になります。

1)日本と日本以外の植物園の違いについて
 日本には130箇所位の植物園があります。世界的にレベルの高い植物園はヨーロッパとアメリカ中心にあります。ヨーロッパの人々は日本の植物園を見て、日本には植物園と呼ばれるものは無いと認識しています。植物園の歴史、園芸を取り巻く状況、生産状況、花の消費などスライドをご覧頂きながら話をいたします。
 日本の伝統的な庭の手法とヨーロッパの庭では大きな違いがあります。例えば、オランダの一般家庭の庭では沢山のチューリップが植えられています。オランダは世界の花の生産基地であり、特に球根類の生産が多く、日本にはチューリップだけでも年間2億球位を輸出しています。
 ニュージランドのクライストチャーチはガーデンシテイとして、街並みが綺麗で、世界的に有名です。日本の住環境とは違い、広い庭、通りから玄関までが広く、芝生と多くの花が植えられています。イギリスではよくハンギングバスケット(吊り篭)で街並みを飾っています。
 日本の庭園は、囲まれた場所で、住人が中から見る庭です。ヨーロッパで発達した庭の形式は、道行く人が見ることが出来るので、街全体が美しく見えます。最近は日本でも街全体を美しくしようという動きから、通りから眺められる庭をよく見かけるようになりました。

2)植物園の歴史
 日本の植物園は歴史が浅く、水族館や動物園といったレジャー施設の一つと認識されています。それは、一般に行政が植物園を作っている場合が多く、行政の担当者にも明確な意識がありませんし、訪問する人も植物園とは何をすると処なのか、との意識がヨーロッパの人々に比べて希薄であります。特にイギリスでは、園芸は社会の中での位置づけが高く、園芸はジェントルマンの嗜みとなっていますから園芸に精通している人は社会的な地位が高いと考えられています。
 日本では、比較的規模が小さい植物園はたくさんありますが、植物園本来の役割を果たしているか否かを含めて、肩身の狭い状態にあります。
 世界で一番古いと言われる植物園の原型はイタリアにあり、庭園には各種の植物が整然と植えられている様子が版画に残っています。西暦1540年ごろに作られました、日本では戦国時代に相当する時期ですが、ヨーロッパには植物園らしきものが、既にあったと言うことです。
 イギリスのキュー植物園(1759年)は世界の植物園の総本山といわれ、世界の植物分類学研究の中心となっています。植物園として有名なところは、ライデン植物園(オランダ1587年)、キュー植物園(イギリス1759年)、エジンバラ植物園(スコットランド1820年)等で、いずれも200年から300年の歴史をもっており、規模が大きく、こういうものが、ヨーロッパでいう植物園だと思いますし、世界の主だった植物園はイギリス人が作ったと言っても言い過ぎではないと思います。

3)ヨーロッパ人が作った、ヨーロッパ以外にある植物園
 カーステンボッシュ植物園(南アフリカ)、カルカッタ植物園(インド)ぺラデニア植物園(スリランカ)、シンガポール植物園、ボゴール植物園(インドネシア)、南京植物園(中国)、北京植物園(中国)等は規模が大きい植物園です。
 ライデン植物園(オランダ1587年)は日本と縁のある植物園です。江戸時代、日本は世界の中でも観賞価値の高い植物の宝庫と言われる国でした。ヨーロッパの人達は日本の植物が欲しかったのですが、日本は鎖国をしていたので、出島のオランダ貿易を通じて、シーボルトが日本の重要な植物を集め廻りました。有名なのがアジサイやカノコユリなどを持ち帰って植えたのがライデン植物園です。
 クライストチャーチ植物園(ニュージランド)は、日本では栽培が難しい球根ベコニアを展示しています。寒暖の差が少ない風土なので、関西では作り難いエリカやカルーナがいとも簡単に育っています。
 メルボルン植物園(オーストラリア)では、園内は分類に基づいて整然と植物が植えられています。
 シンガポール植物園は、町の中にあり、重要な観光資源として集客力があります。ランが中心で、ヤシのコレクションも素晴らしです。温室は必要ないので簡易なハウスです。

4)日本にはなぜ大きな植物園ができなかったのか
 東南アジアの国々の大規模な植物園は、植民地時代にヨーロッパの列強諸国が自国で栽培できない熱帯の有用植物を探索、栽培するための拠点施設として発展したものです。有用植物のひとつに「パラゴムの木」があります。パラゴムの木にキズを付けて、そこから樹液を取りゴムを作りました。産業的に重要な植物が「パラゴムの木」で、原産地はブラジルですが、イギリスでは育ちませんので、当時イギリスの植民地であったシンガポール・スリランカ・インドなどの東南アジアの国々で栽培しました。その他にも熱帯の産物は、コーヒー(原産地エチオピア)、コショウ(インド)カカオ(メキシコ)等で、植物園はイギリス国の産業的な面で重要でした。
 規模の大きな植物園は、そこを支配した国々が作ったもので、殆んどが、イギリス、フランス、オランダ、スペイン、ポルトガルですが、植物学的に力を入れたのはイギリス人とオランダ人でした。
 日本は植民地にならなかったことや熱帯でもないことで、ヨーロッパ人によって植物園が作られることがなかったのです。

5)日本の植物園
 日本には大きな植物園はありませんが、小さな植物園はたくさんあります。区分は難しいのですが、国公立植物園(国や地方自治体が作ったもので「花の文化園」など)、私立植物園(六甲の高山植物園など)、薬用植物園(武田薬品など39園あり、薬用植物の基礎研究や保全を目的としている)、学校植物園(大阪市立大学、北海道大学、東京大学など)です。
 日本では戦後各地に作られましたが、その多くは地方自治体が市民のための施設として整備されたもので、我々は植物園と呼んでいますが、ヨーロッパ人は植物園とは呼ばない、と言う訳で日本には本格的な植物園が無いとの認識です。

6)植物園の本来の目的
 本来植物園は野生の植物を扱い、その研究をすることが大きな目的であり、ボタニカルガーデンと言われています。
 一方で、我々は花を観賞し、そのために改良された園芸植物は、華やかで、産業としても重要です。植物は品種改良をすると野生の物よりもあでやか(派手)に成り、人は無意識のうちに一番華やかな種を選ぶので、結果として園芸植物は野生に比べて派手な色合いになります。
 鑑賞用や各種の目的で品種改良をした植物を中心に集めて展示している植物園を園芸植物園と呼んでいます。その総本山がウィズレーガーデン(イギリスロンドン郊外)です。新しく品種改良した植物は、それを開発し人に権利が生じます。品種登録をしておくと、登録された品種は他人が勝手に増やすことが出来ません。種苗分類の元締めをウィズレーガーデン(イギリス王立園芸協会)がしています。
 キューケンホフ公園(オランダ)は、チューリップなど春の球根植物が咲くシーズンのみ公開しています。その時期以外はクローズしています。ここは植物園ではなく、トレードする場所で、チューリップなど新しい品種の球根の売買にバイヤーが集まる公園です。

7)植物園の学術的役割
 植物園、庭園、公園といっても、植物園と庭園の区別が難しいし、庭園と公園の区別も難しい。ただ植物園には定義があります、日本の場合、日本植物園協会があり、協会に加盟する要件として規定しています。(花の文化園も植物園協会に加盟しています。)
 【植物園とは、観賞を通じて植物に関する知識を高め、自然に親しむ心を養うために多数の植物を収集、育成、保存、展示し、併せて学術研究に資する】と書かれています。
 植物を研究するにあたり大事なことは標本です。日本にはきちんとした標本が整っている植物園は数少なく、その中でも一番は、高知県立牧野植物園で、牧野博士が収集した標本を保存する標本庫があります。

8)花業界の現状
 「花の文化園」が出来て21年になりますが、お客さんの入り(集客状況)は経済状態とよく連動しています。「花の文化園」は大阪府の環境農林水産部の管轄ですから花の産業を支援する役割も期待されます。
 統計資料で見ると切花の生産量は1997年頃から大幅に減少していますが、花苗は減っていません。切花は贈答用や業務用に使うことが多いので景気の変動に影響されやすいのです。
 花屋の数も減っています、花屋さん一軒あたり平均で年間売上げが3000万円程度で、花屋の数は1995年をピークに減少しています。
 花の産業は、30年位前は市場規模が6000億円でしたが、現在は4000億円程度に減っています。景気が悪くなると嗜好品である花の需要は減少し、ホームセンターでも花の苗よりも野菜の苗が多くを占めています。
 人口の推移で見ると園芸はまだまだ重要な産業です。(4000万人程度)
園芸用品を買う年代は、30代までの人は花に興味が無く、年を取るごとに園芸に興味が出て来て、60才代の人が一番、園芸やお花にお金を使います。

9)花の文化園について
 「花の文化園」のような公の施設は、税金を使ってやる以上は公共的、公益的事業を展開するべきですが、管理委託料と収入を財源として収支を合わせる必要があります。平成18年から指定管理者制度が導入され、民間企業が参入して来ました。
 「花の文化園」は、地元の人々や関連施設の活用、ボランティア活動など地元や地域と密着して、地域の活性化のために「花の文化園」がどのような貢献が出来るか、を提案して来ました。その結果、私達が引き続いて指定管理者になりました。
 以下、「花の文化園」での最近の状況、仕事について紹介させて頂きます。
 「花の文化園」の入口正面の花壇は、以前は年に6回植え替えましたが、今は3回です。梅とサクラソウは大阪府民の花ですが、「花の文化園」ではコレクションとして充実させています。現在府下では梅に大変な病気(ウイルス病PPV)が発生して問題となっています、一枚の葉っぱに菌が見つかると、その木や廻りの木は抜根して焼却処分しなければなりません。「花の文化園」ではその病気に被害が一本もなくて安堵しているところです。
 「花の文化園」をよい植物園にしたいとの思いで20年間仕事をした中で、延々と開墾を続け、新しい植物を植え続けて来ました。最近の5年間に整備したエリアの代表的なものは、クリスマスローズ(6500株)とクレマチスです。
 2009年に名古屋でCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)がありました。(179の締約国と国際機関、NGO/NPOなど約1万3000人が参加)。
 植物に限らず、野生生物の多様性の保全は社会的な関心事になっています。大阪府内には野生植物が2300種確認されていて、日本全体では7000種があります。世界では25万種あると言われています。日本にある野生植物7000種の内、約4分の1が絶滅危惧種とせれています。
 「花の文化園」では、大阪府の稀少な野生植物の保全事業を進めていて、例えばクリンソウ、ササユリ、ヤマユリ、キキョウ、ヒメユリ、オキナグサ、ユキワリイチゲなどを保存するコーナーを設けています。野生植物が減少する原因は環境破壊が大きいのですが、観賞価値の高い植物では人による採集も減少に拍車をかけています。

10「花の文化園」独自の情報発信
 ダリヤは関西では育ちにくい植物です(熱さに弱く病気に弱い)、しかし皇帝ダリヤは強い植物です(ご当地在住の大沼さんが紹介)、そのハイブリッドを作ることで、植えっぱなしでいけるような新しいダリヤを作りたいと品種改良を行っています。今年の秋にはたくさん咲くと思います。その他、ケイトウの品種改良をしたいと思っています。
 クリスマスローズ大作戦といって「花の文化園」でタネから育てたクリスマスローズの苗を、各種の団体や施設・学校に配布しており、大阪府内に、すでに1万株位「花の文化園」発のクリスマスローズが植えられています。

おわりに
 花いっぱいの街づくりのための人材養成ということで、年間25回位講習会を実施しています。その修了生のボランティア組織、フルルガーデンクラブ(280名登録)と言いまして、各地域で活動しています。(昨年の活動実績は年間延べ1万人)
 私達は「花の文化園」の仕事を通じて、人材の養成、人の育成により地域で活動される人達に、地域に愛着を持ち、自分の街を綺麗にしたいと思う人の数を一人でも増やしたいと考えています。「花の文化園」で20年以上さまざまな仕事をしてきましたが、このボランティア養成事業が、一番地域社会に貢献出来たことではないかと思っています。




平成24年7月 講演の舞台活花



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