平成18年度
熟年大学
第五回
一般教養公開講座
於:SAYAKA小ホール
平成18年10月19日
医療者との出会い
~よりよい関係をつくるには~
大阪府立大学看護学部助教授
坂本 雅代 氏
講演要旨 病気になって医療機関にかかったとき、医療者にお任せする状況から、病気や治療などについて十分な説明を受け、自分の意思で方向を決定することが求められています。 医療者とどのように向き合えばよいかを共に考えます。 |
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●皆様が病院などを選ぶにあたって、今の医療体制を知っていただくこと、
三重県の調査では、最も多いのが自宅が近いからという理由で半数以上を占め、次にかかりつけの医療機関、最後が医師が信頼できるからの順となっています。
今からのお話の中で、どう選べばよいか、考える参考になればと思います
医療を取り巻く環境状況 皆様ご存じのように、我が国の医療保険制度は、公的な医療保険制度により、いつでも必要な医療をうけることができる国民皆保険制度が採用されています。
しかし、医療制度をとりまく環境は大きく変化をしています。それは、急速な少子高齢化の進展によって、老人医療費を始めとして医療費が年々増加をしています。 しかし、その財源である経済環境は厳しい状況にあって、入ってくるものが限られていることから、締め付けが厳しい状況にあって、おちおち病気にもなれない状況で、具合が悪くても我慢をすることがありませんでしょうか。 また、今の医療技術はといいますと、遺伝子治療や再生医療など、その技術の進歩はめざましい状況にあります。昨日までおこなっていた治療内容が変わり、常に新しい知識や技術を学ばなくてはいけない、めまぐるしい状況にあります。
しかし、その陰で何が問題となっているかといいますと、人間の命や人格を否定する医療事故が増大しています。大変恐ろしい状況にもあります。 でも、そのような状況ではありますが、医療をお受けになる皆様の意識にも変化が起こっています。以前は病気になれば、お医者さんや看護師さんの言うことを聞いていればよかった状況から、検査一つにしても、どのような方法があるのか、ご自分が知りたい、選びたいと言うように、皆様の自ら受ける医療に対して、「知りたい、学びたい」と言った要求が高まってきています。これは大変重要なことだと思います。
医療や医師に対する意識 そのような医療を取り巻く環境のなかで、皆様の医療や医者に対する思いはいかがでしょうか?
お受けになる医療や医療者であるお医者さんなどに、全幅の信頼を置けれていますか。
ある調査では、不安を感じることが、よくあると答えた方が15.6%,
時々あると答えた方が、6割近くをしめ、この両者を合計すると、7割以上の方が何らかの不安を感じていることを示しています。
何で不安を感じるのでしょうか、その理由としてあがっていた内容は、十分なコミニュケーションがとれないとされています。診察までに3時間以上まって、診察は3分と言う事態は、以前に比べると、予約診療制に変更する、あるいは、検査データなどをコピーして渡してくれるなど、少しはお医者さんと向き合う時間や、説明を受ける時間などが増え、人間関係回復に向けて、改善への努力を重ねているところがあるかなと思いますが、いかがでしょうか。
一番の問題は医療事故など、国民の生命が保障されない状況にあることですね。そこで国は、安心して医療をうけて頂くことができる医療提供体制を整えるために、いくつかの施策が打ち出しています。
その狙いには、患者と医療者との信頼関係の下に、患者が健康に対する自覚を高めていただき、医療への参加意識をもっていただくこと、そして、予防から治療までのニーズに応じ医療サービスが提供される患者本位の医療を確立することとしています。そこで次の5つの重点策を掲げています。 1つは、情報提供の推進があがっていますが、その中には医療者が処分を受けたら、その内容の開示して、情報を提供することが含まれています
。
2つめが「医療の再構築」です。医療機関や患者さんの動きを調査して、対策を再度立て直すというものです
。
3つめが、「医療機関の機能分化と連携」です。2つめの医療の再構築と重なりますが、医療機関の役割と見直すと共に、医療機関同志が連携をとって、効果的な医療をしましょうということをめざしています。
4つめは「人材の確保と質の向上」、これは言うまでもありませんが、必要な数の人材を確保するとともに、質も高めましょうというものです。
そして、最後が「医療の基盤整理」です。地域によっては受ける医療の内容に格差がありますね。それらを見直しましょうというものです。
治療に対する意識 次は不幸にも病気になったときの、皆様の治療に対する意識はどうかということをみてみたいと思いますが、
病気になったとき、治療などについて皆様はどのように対処しますか。
もうまな板の鯉でおまかせをするのか、いやいや自分のことゆえ、しっかり情報を集めて自分で決められますか。これは日医総研調査によるものですが、 「医療は高度・専門化しており、患者は説明を聞いてもよくわからないので、医師に任せて医師の指示に従えばよい」との意見も17.7%あり 、病気は患者自身の問題であり、治療内容については患者自ら十分に説明を聞き、納得した上で治療を受けるべき」という意見に賛同する国民は73.6%でした 自己決定の時代 自分で決めると言っても、そもそも自己決定とは何かということですが、自己決定権とは
他人から教唆や示唆を受けずに、自己決定する基本的な人権で、
個人の問題を主体的に選択したり、意思決定する権利
「ただし公共の福祉に反しない限り」という制約のもとという条件があります
。
ただ、自己決定といっても、医療について自分一人で決めたくても、その通りには行かない問題がありますね。 自分としてはがんになって、抗癌剤の治療をして副作用に苦しめられるよりは、残りの時間を自分らしく過ごしたいと、思っても、ご家族はその治療をうけて少しでも長生きをと、この両者の意向が違う家族の言い分も分かるしとなると、そこで、結局ご本人は、周りの意見に従い、苦しい方法を選んだというケースを、病院勤めしているときに経験をしました。
自己決定と言っても大変複雑な状況の中で、総合的な判断をしなくてはいけない、大変ですが、その時の状況をみきわめ、ご自分にとって最前と考え判断されたことについては、まわりのものは尊重することも大切といえますね。 患者の権利 自己決定以外にも患者の権利と言われているものが多くあります。
患者の権利には、保障されるべき原則があり、1981年リスボンにおける第34回世界医学会総会において11個の権利が採択されています。 その一つに、広い視点からとらえると生命の尊厳と、人格の尊厳の条項があります。 生命の尊厳とは、生命は環境との相互作用によって維持存在されており、その生命の主体である患者に危害が加わらず安全が守られることを第一とします。 そして、人格の尊重とは、人間は自らの意思に基づいて生きており、自由に自己決定し尊重されることが大切だとしています。 ただ、その自己決定には、十分な情報のもと説明を受けることができ、かつ、同意や拒否などをすることができることが必要です。 (11の権利の紹介省略)
自己決定をするには・・・
ご自分が受ける治療や検査などについて、その目的や方法、予想される効果などについて、十分な説明を受け理解した上で、そのことに対して同意をするということ、それがインフォームド・コンセントです。
この頃病院にいって検査を受けるときや、お薬を使うときなど、紙に書いて説明を受けたり、時間をかけてゆっくり説明をきくことがあると思います。医療者は自分が分かっているので、説明など専門的な言葉を用いて、行うことがあると思いますが、分からないときは、しっかり分からない旨、医療者に問い返してください。そして、説明後に、説明したことを了解したら、説明同意書というのがありますが、その段階でご自分の名前を書いて下さい。医療者からは説明をし、了解をいただきましたよという、証としてサインを求められることにまります。
インフォームド・コンセント の意味する内容には 適切な情報が得られる:知る権利と
自由な意思でしっかり考え選択すること、
また、嫌な時には、検査や治療を受けるといったけど、やっぱりよく考えて、やめますと言うこと、撤回することもできることが、決定する権利には含まれています。 説明を受けた時は了解したことを伝えたけど、もう一度考えたら、違う方法を選びたいのでということであれば、その旨遠慮無く申し出てください。 迷った時にはセカンドオピニオン
セカンドオピニオンという言葉があります。
この内容は、ご本人やご家族から、診断や治療についての医学的な相談への対応していただけることです。その対応者は医師が相談に応じるものです。
いまかかっている主治医のお医者さんから、情報を得ても、治療法について決定できない、納得が出来ない、不安があるときなど
主治医の先生以外の専門医に意見を求めることができる制度です。
大きな病院などでは、セカンドオピニオン専門外来として、その対応をしてくれるところが増えています。
セカンドオピニオンの意義
それでは、セカンドオピニオンを受けることの意義は、どのようなことがあるのでしょうか、
主治医以外の専門家の意見を聞くことは、
1:いろんな意見を得ることで、治療方法の選択に役立ちます。
2:治療などについて主治医との方向性が合致すれば安心感・信頼感に繋がります。
3:自分の病気について確認ができ、将来の人生設計のイメージが描けるのです。
困った時には、患者相談窓口へ 医師による医療相談以外として、患者相談窓口というのがあります。
これは、頻発する医療事故などをうけて、
医療に関する患者の苦痛や相談に迅速に対応し、医療機関への情報提供、指導等も実施する体制の整備により、医療の安全と信頼を高めることにあります。
その中身は、インフォームド・コンセントの徹底、患者相談窓口の設置、患者への情報提供などに取り組むことが必要とされています。(患者相談の窓口機関(省略))
あなたが主役~かかりつけ医を選ぶとき~ :病気についてしっかり調べてくれる。
・相談したとき納得のいく対応をしてくれる。
・病状や薬をわかりやすく説明してくれる。
・自らの限界を知り専門医を紹介してくれる。
・医学の進歩に応じて勉強をしている
。
・対等なコミニュケーションがとれ人間味がある。
あなたが主役~賢い患者になるために~ あるNPO法人から出されている「医者にかかる10か条」という小冊子の要点をご紹介します。 ①伝えたいことはメモして準備:
不安や苦痛で一杯でしょう、でも大切な伝えたいことは、 その内容メモをして整理しておきましょう ②対話の始まりはあいさつから:
お互い人間関係をよくし理解を得るには、挨拶をしましょう ③よりよい関係づくりはあなたにも責任が:
お互いに求めるだけではなく、理解する努力をしましょう ④自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報:
医師がすべてを分かることが有りません。ご自分のからだの状況について しっかり伝えるとともに、今までの経過などについてもまとめておきましょう ⑤これからの見通しを聞きましょう: この治療によってどのような結果が得られるのか、また今後どのような 経過をたどるかなど、先の見通しを確認しましょう。 見通しが描けることは、自分が何をすべきががわかり、目標に 立ち向かうことに繋がります 。 ⑥その後の変化も伝える努力を: 良くなった、悪くなったなどその後の経過を観察しメモして、 次回にはその状況をえましょう。 ⑦大事なことはメモをとって確認: 堂々とメモをとって確認をしましょう。 ⑧納得できないときは何度でも質問: 遠慮なくわかるまで質問をしましょう。 ⑨医療にも不確実なことや限界がある: ⑩治療方法を決めるのはあなた: ご自分で決めることも必要です。 いかがでしょうか・・・お聞きになっていただいて,、よりよい医療者との出会いをされながら、ご自分がよりよき健康になることへの手段を、少しでも皆様にお伝えすることができればいいかな、との思いを込めてお話させていただきました。 |