3. 少子化に対する対策
少子化は、放っておけばこのまま低い段階で進み、将来著しい人口減退がやってくるという考え方が一方である。この場合、人口の問題は環境問題と同じで、ストックに影響を与えることが明瞭になったときには、時すでに遅し,と考える。
?他方,今後の出生力変化に関して、これは新しい経済の構造や社会の変化に対応する過渡的な現象で、ポスト工業化時代が確立するにつれて、晩婚ではあるが一定の出生力回復はみられるであろうという議論がある。
?これらのどちらが正しいか。
現在、多くの先進国で出生力を維持・回復させる家族政策がとられている。
?児童手当、育児休業、子育て支援基盤の充実等の様々な 政策がある。しかし、一般的にいって今のところ、それら家族政策の充実と出生力の水準とは,あまり相関が強いとは言えない。
?アメリカでは何の家族政策を行わなくとも出生力はある程度の水準を維持。
? ドイツでは充実した家族政策にも関わらず低水準。
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スエーデンでは、やはり充実しており、一時的に出生力は反騰したが最近再び低下。
?現在、何もしなくともよいという議論と政策の必要性ありの議論とが対峙している。
5. 一般的な対策への提案
?結婚率の上昇−−家庭を持つことを魅力的にする。ーー企業の労働慣行等を改革する。
? 有配偶出生力の上昇−−育児手当
育児と仕事の両立
地域で育てる−−前期高齢者の活用
?家族という組織をもう一度考え直す。
?子供を公共的な財とする考え方
子供を持つ人にはみんなで援助するということが考えられる。これは、子供を持つ人への援助だけでなく、子供を育てる環境の整備していくことに重点的に配分することが考えられる。
?低出生力化への最も大きい問題は、ミクロ的にみて、子供を持つことと人々の生存維持とが全く乖離したことによる。そのもっとも大きな引き金は、年金や社会保障制度の確立である。
?社会保障の見直し−−子供を持つものに厚い年金等−−しかしこれも子供を持てない人々もあることから難しい問題。 子供を持つ人と持たない人で、年金に差をつけるというのは、年金を次世代が負担するという考え方ではあり得るかもしれない。しかし、子供を持つ持たないは非常に複雑な問題であり、このような方法は必ずしも賛同が得られないであろう。
?従来と異なって世代間の分配を考えていくことが重要。−−環境問題も同様。
?従来の年功序列的賃金と生涯雇用が女性の雇用に問題をもたらし出生力を低下させるという考え方がある。−−八代尚宏『少子・高齢化の経済学』, 1999年.
?男女とも、従来の分業論ではなく、家庭、仕事での協同的に行っていくことが必要。−−男女共同参画社会
?男女が共同に家庭の仕事をすることの違いが、出生力の差異をもたらすという考え方の根拠として、アメリカ、イギリスが家庭に於ける共同参画が進んでいるのに対して、ドイツ、日本、南欧では男子が家庭の仕事をあまりしない傾向がある、ことに求められる。
6. 今後の対策へのまとめ
?基本的には、子供を産み育てることは、個人の判断に任されることであり、出生力上昇を国策として推進することは困難。
?しかし、子供を産み育てることは、人間のもっとも基本的な営みの一つ(本能の一つ)で、人々が等しくそれを行い得る状況にあることが必要である。
?その意味で,子供を産み育てる環境が問題であれば,それを整備するための方策は必要である。
?今までの政府の政策は確かに子供を育てる上で困っていた人々にとって,何らかの手をさしのべていることは事実であろう。
?また男女共同参画社会も,女性の負担を軽減するであろう。
?しかし,長時間労働と長時間保育が前提というのは,本当に望ましい姿であろうか。
?日本では,競争社会が進展しても,生活の質が相変わらず貧弱のまま,これからの労働者は,能力ややる気のある人たちは,給料が高くなるが長時間労働となり,ますます子供を養育する機会がなくなる。
?日本でも仕事と生活の両面を達成できるようにしていくために,生活の質とは何かみんなで考え,そしてそれを政策として具体化していくことが重要であろう。
?このことは,子育てだけでなく,結婚についても影響するであろう。仕事だけでなく,生活が満足のいくような状況であれば,結婚する機会も多くなるであろう。
?具体的に考えていく場合、地域によってかなり異なった生活や生産の特色があり、地域ごとに適切な少子化対策や高齢化対策が考えられるであろう。