第6回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
平成25年11月14日
肉体は神のやしろ




広島大学大学院総合科学研究科 教授
町田 宗鳳 氏

講演要旨

肉体は神聖な神の社ですから清潔に保ち、いつも健やかにしておかなくてはなりません。おいしいものを食べたり、美しいものを見たり聞いたりすることも、肉体という社に宿る神への捧げ物となります。肉体をおろそかにする人は、徳を損ねる人です。
 

 (1)肉体は神の社
 私のこのごろは学者を半ば廃業したように、専ら健康論を説いています。自分の体をベストコンディションにおいておけば心の健康に繋がり、健全になります。
 皆さんも、あちこちの神社に参られると思いますが、神様は神社だけに居られるのではありません。自分の肉体の中に神様が居られので、己の肉体というお社をおろそかにするとバチが当たります。だから、肉体の社の祭壇をいつも手入れしておかなければなりません。
 肉体の社を健全に維持する為には、4つの条件があります。
 その1つ目は、清潔に保つことです。
 ほとんどの日本人はきれい好きで、毎日お風呂にも入り合格ラインにあります。そしてもう少し範囲を拡げて、住居も自分の肉体の一部なんです。ですから毎日整理整頓し、お掃除して清潔を保たなければいけません。「断捨離」が必要です。
 2つ目は美しくするという事です。
 若い人はいつも気を使っているので合格ですが、年をとってくるとだんだん、手を抜いてしまいます。幾つになってもおしゃれに気を使い、身だしなみを整える事が大切です。
 北欧の人はとてもおしゃれです。年配のご夫婦でも散歩に出るときもカジュアルにおしゃれをしているんです。人によって最も魅力が出る服装があると思います。自分のチャーミングポイント知り、おしゃれ心を持って高齢になっても魅力ある服装を心がけることです。
 昨日お会いした聖路加病院の日野原先生は、100歳を超えておられますが、非常に魅力的でダンディな方です。神を冒涜しない為にも、常におしゃれ心を持ち、きれいにしておきたいものです。
 3つ目は健康を保つ事です。
 私は幼少のころは病弱でしたが、お寺で修行するうちどんどん元気になってきました。人は遺伝等それぞれによって違うとは思いますが、養生の仕方次第で元気になっていきます。たとえ病気があっても、一病息災という言葉があるように、かえって養生することによって長生きする人が結構おられます。
 頑健な人が急に弱ることがありますが、死ぬまで健康を保つことは、自分の最大の責任です。何を食べ、どんな行動をしているかで変わります。亡くなるまで目的を持って生き生きと生活し、自分で動ける肉体を持ちたいものです。
 私はやりたい仕事が一杯あって、80歳では足りない。100歳まで元気で生きたいと思っています。
 4つ目は喜びで満たす事です。
 神社では神前に御神饌をお供えします。この肉体がお社であるなら、きちんとお供えをしなければなりません。おいしい食べ物、飲み物を与える、いい音楽を聴く、きれいな絵画を観るなどすべてが肉体を喜びで満たすことです。
 禁欲的である必要はありません。食べ過ぎ、飲みすぎはいけないけれど、常に肉体を喜ばせる事、常に自分を繰り返し、いろんなことで感動させることが大事なことなんです。感動がなければ干からびていきます。

(2)「食べる」ということ
 日本人は本当にグルメです。日本人は世界一おいしいものを食べているんではないでしょうか。
 日本には世界中の料理がありますが、どんな料理を食べても現地で食べる料理より日本で食べる方がおいしいと思います。若い時からおいしいものをいつも食べているから、日本人は総グルメ化していると言えます。
 私の健康法は温冷浴です。シャワーと水風呂を交互に入ることを10回ぐらい続けます。これをやると相当疲れが残っていても、すっかり回復することが出来ます。冷え性の方には最適な方法だと思います。
 最近、よくブクブクに太った若い人をよく見かけます。これは子供のころから、親が甘いもの、脂っこいものをいっぱい与え続けてきた結果、味覚が狂ってきているんです。今は世界中に肥満が増えています。これは遺伝ということもありますが、やはり食習慣の問題であると思います。親の責任であると言えます。
 いま子供の胃袋はジャンクフードに洗脳されてしまっています。子供にどういうものを食べさせるかで、その子の一生が変わってきます。日々の食生活に気を使っている親は少ないのではないでしょうか。
 次に、人間には三種の人間がいるというのが私の考えです。仏教でいう九品のうち下品、中品、上品で表します。食べ過ぎは下品です。おおよその病気の元は、食べ過ぎと便秘です。食べて元気になる人は中品で、これが普通です。上品は食べて悟る人で、食事を楽しむだけでなく、精神性を高めていく人です。

(3)「運」と「徳」を育てる食べ方
 私は宗教学者であるのに『人の運は「少食」にあり‐「プチ断食」がココロとカラダに効く理由』という本を出しています。なぜかというと、どんな宗教を信ずるより、どんなものをどのように日々食べているかで人間の人格は変わっていくからです。
 江戸時代の観相家の水野南北は、牢屋の中で人相を観ているうち、なぜ犯罪人の相が悪いのかに興味を持ち、3年間床屋で人の顔を見て観察しました。次に風呂屋で働き裸の肉付き、骨付きを見て研究しました。最後には火葬場で仕事をして、焼けた遺体の骨格の残り方をみて、骨格と人の運勢の比較を研究しました。
 この人が50歳のとき、伊勢神宮で「人の運は食にあり」というお告げを受け、人により運が開ける人、悪くなる人など何が違うのか考えた結果、「日々の食事の仕方」にあると悟り、「摂食開運説」を唱えました。
 職業別で見て長寿なのは宗教家です。最近の坊さんは贅沢な生活をしているのでそれほどでもありませんが、昔の坊さんは長生きの人がたくさんいました。例えば鎌倉時代の法然上人は80歳、その弟子の親鸞は90歳まで長生きしました。中世になって、一休さんは88歳、蓮如さんは85歳で死にますが、84歳で27人目の子供を作っています。当時の平均寿命は25歳ぐらいなのに、お坊さんが80、90の長寿を全うできたのは、日々の生活態度が良かったからといえます。
 お経を上げるので呼吸が深く長くなるし、よく歩きました。食事、運動、呼吸方法すべて健康で長生きの要素といえます。
 だから私は、精神論や道徳論では人間は変わらないと思っています。徳を育てる最高の方法は、日々の食生活にあります。食事をおおらかに楽しむことが大事で、バランス良く何でも食べ、量は少食がいいと思います。

(4)「心の酵素」を増やす
 ではもう少し酵素の説明をしておきます。体内も脳内も酵素の量は20歳頃がピークで、以降減ってくるにつれ老化が始まります。若い人の肌はきれいで太らないのは、食べても新陳代謝が活発で全部エネルギーに変えることが出来るからです。歳とともに酵素が減ってくると代謝率が下がって、食べたものが体内脂肪や内臓脂肪で残ってしまうので太ってくるのです。
 自分の肉体が一生で作れる酵素の量は決まっているそうです。これを潜在酵素と呼び、消化と代謝の2つの使われ方をします。食べ過ぎて消化に多くの酵素が使われると、代謝に使う量が少なくなり不活発になります。したがって、若さを保つ為には食事の量を控える、酵素の無駄遣いをしないこと。また不足する酵素は外から食物酵素として補充することが出来るので、肉、魚、野菜、果物など生の食事をとることが大事です。
 友人の森美智代さんは若い時に「脊髄小脳変性症」という難病を患いましたが、医師の指導で断食療法で克服しました。彼女は17年間食事をとらないで、コップ1杯の野菜ジュースだけで体重60キロを保っています。長年の食生活で、青汁だけで維持できる体が出来上がっているんです。
 食べ過ぎ、飲み過ぎはダメです。心の酵素がふんだんにあれば良いんですが、減っていっているので、ちょっとしたことで挫折し、落ち込んでしまうんです。そこで病院に行き、もらった薬を飲み続けやめられなくなります。医者と製薬会社が病人を必要以上に作り出していると言えます。薬に頼らない回復を目指す方法が肝心だと思います。
 心の酵素を増やす方法の一つが感謝することです。どういう境遇に暮していても心の底からありがとうと言う感謝の気持ちが大事です。自分を好きになる、これが意外と少ないんです。日本の若者は自己評価率が低いと言われています。また中高年でも自分の事が大好きという人は少ないです。たとえ性格的な欠陥があっても、自分そのものを大好きになることが大事だと思います。
 次に、笑うことは人間の特権ですから大いに笑う事です。笑う事はとっても良いことで、笑う事によって免疫性が向上して病気も治ってしまう事もあるようです。一家の全員がいつもニコニコしている家庭は本当にいいと思います。
 また、遊び上手であることもすごく大事なことです。自分の好きなことを楽しんで、いつも肩に重い荷物を背負って生活するのは大変ですよ。たまにはその荷物を降ろして、何でも好きなことを好きなように遊び、楽しむことが健康の秘訣です。

(5)「生きがい」の往復切符
 私は会議で外国に行っても、少しでも時間があれば遊びます。いくつになっても無邪気に遊ぶという事が凄く大事だと思います。
 普段、私たちはいろいろな制約のある日常空間の中でまじめに働いています。しかし時には日常空間から解放されて、非日常空間に遊ぶことが必要で、遊び上手になり、自分を楽しむ時間を持つことです。
 非日常空間と日常空間を自分で切り替えて、この間を行ったり来たりしていると、生命力が出てきて創作意欲やイマジネーションが湧いてきます。これが激しい人ほどエネルギッシュだといえます。
 昔は祭りの時に無礼講で、みんな自分を解放していました。しかし今はその機会も少なくなってきたので、自分で祭りをつくって大いに解放しなければなりません。私は大学の教員ですが、いま小説を書いています。『法然の涙』、東日本大震災の被災者をテーマにした『光りの海』を書き、今は一休さんに取り組んでいます。
 よく学者なのになぜ小説を描くのかと言われます。今まで学者としては左脳を使っていましたが、気持ちを切り替え、両空間を行き来する間にイマジネーションが湧いてきて、右脳を働かせてフィクションが書けるようになってきたからです。私にとって小説を書くことが大きな喜びであり、生きがいになっています。

(6)「若返り大作戦」
 若返りのためには、酵素の活性化がキ―になります。それには食事と運動が必要となります。運動はゆっくりと歩く軽いジョギング、歩く速さのスロージョギングがいいです。隣の人が歩いているのに合わせて、30分以上のスロージョギングが体にいい走り方だと思います。それから年よりめいた言葉を口にしない、「年だから」などと決して言わないこと、気持ちの持ち方次第です。
 次に、創作の喜びを知る、物を作りだす行為。例えば畑で野菜を作る等はとってもいいことです。物作りは喜びを満たしてくれ、若返りに貢献してくれます。
 そして新しい事に挑戦するのもいいことです。一度もやったことがないものに挑戦してみるのも、全身に刺激を与えて効果があります。死ぬ直前までクリエイティブであることは素晴らしいことです。
 最後に、異性と仲良くすることです。食養生、気功法、性養生は長寿に役立ちます。異性と仲良くすることで、性ホルモンのバランスがとれて長寿に貢献することになります。
 一休さんは77歳で森女という盲目の若い女性に出会い、京田辺の一休寺で88歳で亡くなるまで10年間その女性と一緒に過ごしていました。最後の10年で一休さんの創作活動は爆発し茶の湯、俳諧、能楽など多岐にわたり道を開きました。その大きな要因は若い女性との生活であったとのではないか考えています。

(7)新しい健康法
 私自身は、新しい健康法を発見しました。自身の精神性を上げたければ、肉体を向上させることです。誰でもできる、どんな宗教にもない画期的な瞑想法はないかと研究の末に見つけたのが、「ありがとう瞑想法」です。
 すでに世界各地でも始まっていますが「ありがとう」の言葉をゆっくりと唱えることによって、脳波がすぐに変わります。何故なら母音を長い息で発声すると2倍、3倍の倍音になり、高周波音が出てくるからです。
 人間の耳は200キロヘルツまでしか聞こえません。生の楽器でも倍音を出していますが、一番良いのは自分の声です。200キロヘルツ以上の音は耳で聞いているのではなく、肌で聞いているのです。肌に入った音は骨を通じて脳に届きます。そして右脳、小化体から生存に欠かせない脳内物質、ホルモンが出てきます。自助努力でその効果が低下しないようにしなければなりません。
 プロの歌手が実際より若く見えるのは、声帯を揺らすことによって脳に刺激を与え、若さを保っているからです。私は偶然この瞑想法を発見したのですが、その効果に驚いています。長年、抗うつ剤を飲んだ人も薬から脱却できています。これは宗教ではありません。「声のラジオ体操」とか「声のヨーガ」とも呼んでいます。私が全国で行っている「風の集い」では涙がボロボロ出てくることが多いです。声を出しているうちに過去のトラウマや、嫌な思い出などの溜まりに溜まった汚れが洗われます。あるいは楽器の音、100人ぐらいのお坊さんのお経の音、ソプラノ歌手の声、鈴の音など全て高周波音による脳内現象です。
 「あ〜〜 り〜〜 が〜〜 と〜〜 う〜〜」を唱えることで、心が洗われて涙があふれてくる50年目に見つけた革命的な瞑想法です。

(8)もう一つの活動
 「ありがとう断食道場」を開催しています。毎回、金曜日の夕方から絶食して土、日と行います。宿便を洗い出すことによって、はらわたをきれいにすると人間は素直に穏やかになります。やってほしいという要望はあちこちからありますが、なかなか実施できないのが現状です。
 私の断食は北海道の原野で摘んで、乾燥させた野草から作った手作り酵素を摂っていただきます。食物酵素の最も凝縮した状態で飲みますので、あまり空腹感は起きません。これをできるだけ多くの方に広めていきたいと思っています。

(9)食べる道楽、食べない道楽
 最後に、人間はたまには食べることをやめないと、本当の意味で食べる喜びが分からなくなります。
 戦争中、何も食べるものがなくひもじい思いをしている時に、たまに何か食べるものがあると、本当においしく喜びを感じられたことだと思います。一億総グルメ時代に、意識的に一時食べることをやめるというのは凄く大事なことです。そうして食べる喜びを一層大きくしていくことが大切です。




平成25年11月 講演の舞台活花



活花は季節に合わせて舞台を飾っています。


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