第2回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
平成25年6月10日
中国の政治と外交
拓殖大学客員教授
石 平 氏
講演要旨 中国を正しく理解し、日本はどう対応するか、 新しい指導体制とこれからの外交政策 日本の領有権尖閣諸島問題と南シナ海問題 |
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はじめに 近代中国の始まりは、1912年、辛亥革命により孫文が清朝を倒して建国した共和国で、国名は中華民国です。 しかし、中華民国の中で共産党勢力が成長してきてゲリラ組織を作って反乱を起こし、1949年(日本では、昭和24年)武力をもって中華民国政府を潰して中華人民共和国を樹立した。中国共産党との内戦に敗れた民国の指導者=蒋介石は台湾に亡命政府を樹立した。その結果台湾の正式の国名は中華民国となっています。 6月9日、アメリカで米中首脳会談が行なわれました。アメリカのオバマ大統領と中国の新しい指導者習近平国家主席は夫々大国の指導者ですが、アメリカと中国では、指導者の選出に大きな違いがあります。オバマ大統領は国民の選挙によって選ばれた大統領であります。習近平国家主席の場合は国民の選挙ではなく、2012年11月に中国共産党の党大会で共産党の総書記に就任した。この時点で国家主席になることは決まっていた。2013年3月の全国人民大会での選挙は単なる手続きです。全国人民大会の代表者=3000人は、共産党、即ち、習近平総書記が指名した人々でありますから、習近平総書記が国家主席になるのは当然であります。 (1)中国式「社会主義市場経済」の問題点と限界 中華人民共和国は、国家指導者の指導理論や政策などによって、毛沢東時代(1949年〜1976年)とケ小平時代以降(1978年〜 )の2つの時代に分類することができます。 毛沢東時代の中華人民共和国は、社会の共産主義化を推進した。毛沢東時代(1949年〜1976年) この27年間は、中国の暗黒時代で、密告の社会とも言われ、何千万人もの中国人が殺された。1億人以上の国民が迫害をうけた。職場の同僚・友人・学校・夫婦・親子間等で、政府に対する不平・不満を聞いた者は、即警察に密告し、即逮捕される。よく中国人は嘘をつくと言われますが、密告社会が尾を引いています。毛沢東時代は、政治闘争に明け暮れて、経済建設をしていなかった。中国経済は崩壊寸前の状態で、世界の最貧国となった。 ケ小平時代以降の中華人民共和国は、政治体制は中国共産党による一党独裁体制を堅持しつつも、市場経済導入などの経済開放政策(改革解放路線)を取り、中華人民共和国の近代化を進めた。問題は、政治権力は変ってないし、共産党の一党独裁政治ですから、共産党幹部が、政治権力を持って市場経済に介入し、利権構造をもち、莫大な利益を得たので、富が一部の人々に集中した。このため、国民の間で、貧富の格差が拡大する結果となった。 (2)年間暴動・騒動件数18万件の衝撃 大半の労働者や国民は貧困化しています。経済は繁栄しているが、その背景にあるものを認識しておかなければならない。日本では信じられない程の貧富の格差です。大半の国民は貧困層で、現在も貧困層の裾野は広がっています。政府の発表では1億5千万人の貧困層がいると言われています。(中国の常識では政府発表の2〜3倍が正しい)実態は2倍としても3億人です。 中国の都会で、高層ビル街から一歩路地裏に入ると、ビックリするような貧困生活をしている。田舎に行くと更に酷い状況です。極端に貧富の差があります。従って中国社会では、大変不安定な社会になってゆき、経済成長に取り残された人達の不満が高まっています。 毛沢東時代と比較すると、当時は最貧国だったが、あの頃は皆が平等に貧乏だったから安心して暮らせた。ケ小平の時代になってから富裕層と貧困層がハッキリしてきた。権力を持つ人々と共産党幹部が結託して利権構造を作り上げ、旨い汁を吸って金持ちになる。従って貧困層、あるいは労働者の人達はこれらの金持ちや共産党幹部に対して不満を持っている。 中国では「仇富・仇官」という言葉が使われている、金持ちと、共産党幹部を目の敵にする言葉です。庶民たちの不満は高まっている。庶民の不満は2011年の一年間で、大小の暴動や騒動・集団的抗議デモが18万件発生している。これは一日当たり500件になる。 例えば、高速道路でバスが爆発炎上し、47名の死者が出た事件があった。一人の男がガソリンを撒き火をつけた。理由は、彼が二十数回生活保護の申請をしたが、全て無視されたので事件を起した。また、上海での暴動事件は、高層ビル工事現場の周辺道路を閉鎖したので政府に対し抗議して、2000人位が腹をたてて暴動を起した。また、四川省の広安で、昨年11月、1万人参加の暴動が発生した。男がバイクで交通違反をして警察に捕まり、警察に暴行を受けたとの噂を聞いて、数時間の内に、一万人が集まった。 彼らは暴動を起すキッカケを待っている。以前は、警察が来たら逃げていたが今では警察が来ても逃げないし、警察のパトカーを引っくり返して火をつける、そして、携帯電話で写真を撮ってインターネットで流すのです。(日本でもインターネットで見ることが出来る)これほどに、中国社会全体が不安定な状態になっている事が良く解ります。 (3)現代流民 2億3千万人のゆくえ 流動人口とは、定職を持たず、安定した生活基盤のない人々が生活の糧を求めてあちこちに流れて暮す人達のこと。流動人口の9割は、農民工(20〜40代)で、農村に生活基盤が無く、あちこち流れて仕事を探す人達が政府の発表で2億3千万人(中国社会で底辺の人達)です。この人達が都会では差別され、行き場を失うと暴動の参加者・反日暴動の参加者になるのです。中国の歴史をみると、「数百年単位で王朝が崩壊し、戦争が40〜50年続き、新王朝が起こり、」の繰り返しであった。王朝崩壊の前に流民が発生する歴史です。では今後はどうなりますか。 (4)第3回移民ブームが意味するもの 最近中国のマスコミが取り上げている問題は第3回目の移民ブームであるとの論調がある。 1回目:清王朝が崩壊して内戦が起きた時、多くの移民が発生した。⇒ 華僑となった。 2回目:共産党が中華民国を倒した時、⇒ 人々は大陸から台湾や外国に移民となった。 3回目:経済大国となった現在の中国で、金持ちやエリートの27%が移民済み(中国銀行の調査した資料)残りの47%が現在手続き中乃至検討中である。⇒ 金持ちやエリート達は将来の中国に不安を持っていることの現れである。 金持ち達は将来の中国はどうなっていくのか、もし貧困層が爆発し、革命でも起きれば金持ちが狙われるとの不安から、財産や子供たちを海外に移すことを考えていることが解ります。 (5)習近平政権はどこへ向かうのか 2012年11月に習近平総書記に就任して以来、半年間で打ち出した政策理念は「民族の偉大なる復興」であります。彼が国家主席になってから毎日念仏を唱えるように言っている言葉です。 米中首脳会談の時もオバマ大統領に説いている。中国にとって「民族の偉大なる復興」は中国が近代以後に受けた屈辱を清算して、近代以前の中国の栄光ある地位を取り戻す。要は、昔の中華帝国の復権、これが習近平国家主席の政策理念であります。それだけ見ても、以前の胡錦濤政権よりも、一層のナショナリズムを全面的に打ち出し、タカ派政権的性格を持っている。では「偉大なる復興」をどのようにして達成するかというと、強軍であります。 (6)「強軍政治」と習近平政権の北挑戦化 習金平総書記になって一番足繁く視察するのは人民解放軍の部隊であります。最近の彼の行動を見ていると、どこか北朝鮮の指導者に似てきたな、と感じます。彼の偉大なる復興を達成する手段は強い軍隊を作る、戦争準備に備える、と指示を出す。従って中国共産党の指導者は、堂々と戦争の準備を整えることが出来る。(人民日報の一面に掲載されていた) 恐らく彼の頭の中では、自分の政権の目標は、「民族の偉大なる復興」を達成する手段として「軍隊」を用いるという実に危険な思想である。対外的には平和的発展とか言っているが国内では、全く正反対の事を言っている。その辺は旨く使い分けている。一方で国内の大きな問題は、これから起こるであろう経済の停滞とか、流動人口の爆発とか、色々な問題が発生してくる。と益々中国社会は不安定になる。では今後どうやってこの問題を押さえつけるか、中国共産党の政権をどうやって守るか、となると、ナショナリズムという旗印で国民を束ねてゆく、また旗印を掲げる事により、対外的に緊張関係や危機感を作り出し、国民の目を外に向けさせる事で国内の安定を保つことが出来る、という方向に習近平国家主席は行くのではないかと危惧しています。そうなると当然日本にとっては他人事ではなく、日中関係や尖閣問題にもかなり大きな影響が出てきます。 (7)「尖閣」の背後にある中国の海洋進出戦略の狙い 尖閣問題のキッカケは、昨年9月当時の野田政権が、尖閣諸島の国有化に踏み切ったからである。しかし、考えてみれば、ある意味で中国に対する配慮からであり、日本政府が中国の為にやったことである。国有化の前に、東京都が尖閣諸島を買うと言い出したので、国有化に踏み切った。国有化の前に、東京都が尖閣諸島を買った場合、東京都は当然ながら、尖閣諸島に色々な施設を造ることになり、尖閣諸島に対する日本の実効支配を強化するためである。(後日、都知事に聞いたら、その通りであった) 野田政権にとっては東京都が尖閣諸島に色々な施設を造れば、中国が怒る、日中関係が悪くなる、それを避けるために、中国に対する配慮から、国有化したのであり、当時の胡錦濤政権は、本来なら、中国としては野田政権に対し感謝しなければならない。残念ながら、感謝するどころか当時の野田政権に対し猛反発をした。 中国国内では、猛烈な反日運動のデモが起こった、しかしあのデモは、自発的に起こったデモではなく、政府主導の、ヤラセデモであった。日本大使館に向かい生卵を投げたが、あれは誰も自分の金で買ってきた訳ではなく(中国人は自分の金で買ったりしない)全て政府関係者がトラックで生卵を運んできて、一人2個ずつ配って投げさせた、中には、投げずに持ち帰った者が多いらしい。あれは胡錦濤政権が組織的にした事で、日本に圧力をかける事であったが、あのデモが2〜3日すると風向きが変ってきた。最初は政府が呼んできた参加者だが、徐々に、流動民の人達が加わり、それが段々、反政府デモに変ってきた。そこで政府はシマッタと思い、急速にブレーキを掛けて鎮静化した。ではデモが鎮静化した後で、胡錦濤政権が日本に対し、何か手を打ったかと言えば、実は何もしなかった。胡錦濤政権は反日デモをやっただけである。日本に対して、軍事圧力とか、挑発行為は、胡錦濤政権はやっていない。 日本に対して、軍事的威嚇とか、圧力と言うような行為がエスカレートして来たのは、まさに、習近平政権になってからである。習近平政権が出来た2012年12月に、中国政府の飛行機が、初めて尖閣沖の日本の領空侵犯をしてきた。また今年1月には、中国解放軍の軍用機・戦闘機が日本の防空識別圏に入ってきた。暫くして、レーザー照射をやった。更に中国の潜水艦がウロウロしだした。これらは全て習近平政権に成ってからエスカレートし、しかも強い態度に出てきた。5月に入ってから沖縄は中国だと言い出した。中国は尖閣問題を沈静化させる気は、サラサラない、寧ろ拡大する方向で圧力をかけてくるし、軍事的挑発を仕掛けてくるなどして来た。何故そんな事をやるのかと言えば、習近平政権の政治路線でナショナリズムを掲げたタカ派政権の方向に向かっているからで、対外政策的にも強くなるし、尖閣問題でも強く出てくる。 日本では、去年12月に安部政権が誕生した。安部政権は、歴代政権よりも日本の主権とか、領土を守る意識が強く、中国に対して「領土問題は存在しない、譲歩しない」と言っている。習近平国家主席も上げた拳を下げないと言っている、だから、領土問題は解決しないし、長期化する事になります。安部政権は、領土問題は存在しないという立場であり、当然正しいと思う。領土問題は当然ながら譲歩してはいけない、一旦譲歩したら、後は限りが無い。そうなると、中国は最近棚上げ論を言い出した。しかしこれも一種の罠である。仮に、日本政府が棚上げを認めたら、領土問題で、中国の言い分を認めた事になる。棚上げ論はおかしな話です。日本人の中にはだらしないのがいる。数ヶ月前、日本の元総理大臣が中国へ行って、棚上げ論は正しい、尖閣諸島は係争地だと言って中国政府の言いたい事を代弁した日本人がいる。 いずれにしても尖閣問題はなかなか納まらない。だからと言って軍事衝突が起こるかと言えば、その可能性は低い、恐らくは起こらないと思います。何故か、やはりアメリカの存在が大きい。今、日米同盟があるということは、アメリカも常にそういう立場を強調している。もし中国が軍事的攻撃を仕掛けて来たら、沖縄にある米軍は、日米安保条約に基づいて、米軍が出動する可能性があるかも知れない。この「あるかも知れない」は中国にとっては大変な抑止力になる。中国はアメリカとは戦争したくない。共産党政権は弱い者には強いが、強い者には弱い。だから戦争になる事はない。アメリカもよく解っていて、若しアメリカが、我々は尖閣には関与しないと言ったとしても、中国が攻撃したらアメリカも困ることになり、戦争を誘ってしまう事になる。 (8)米中首脳会談の結果 先日の米中首脳会談は、習近平国家主席にとっても華やかで花舞台であった。オバマ大統領は、日本の安倍総理が行っても数時間しか会わないが、習近平国家主席とは8時間も会談した。マスコミは凄い事だ、これからは米中が世界をリードする時期が来るのではないかと報道したが、必ずしもそうではない。逆に言えば、米中の間には、それだけ話をしなければならない、厄介な問題が多くあると言う事になる。オバマ大統領は色々な問題のテーマを出した。 例えば、中国の人民軍がアメリカのインターネットにサイバー攻撃を仕掛けている問題 アメリカの調査は済んでいる。中国人民軍が意図的にサイバー攻撃を仕掛けており、アメリカにとっては死活問題である。これに対し、習近平国家主席は調査してサイバー攻撃を止めると言った。オバマ大統領は習近平国家主席に宿題を出している。人民軍の総司令官である習近平国家主席は自分の部下である人民軍を調査し止めさせることが出来るのか、部下は反発する。 北朝鮮の核開発問題で中国は具体的制裁処置をとること 中国はどのくらい北朝鮮に対して制裁処置がとれるか。中国にとっては厄介な問題であるが、反面、制裁する事により良い面もある。ある意味で北朝鮮があるから、中国はアメリカの前で、いい顔が出来る。北朝鮮が暴れると、アメリカが単独で抑えることが出来ない。だから中国の力を借りなければならない。逆に、アメリカも中国の面子を立てなければならない。そのことで中国のアメリカに対する立場が良くなる。但し、北朝鮮が崩壊したら、韓国に統一される可能性がある。韓国はアメリカと同盟関係にある。逆に北朝鮮も解っていて、暴れる。中国はアメリカと信頼関係を作りたいが、なかなか難しい。その他、中国の環境問題等々、多くの問題の宿題を貰ったようである。中国が強くなれば、アメリカは益々日本を必要とするようになる。 (9)今後中国はどうなるのか 国内で革命が起こるのか、場合によっては、国内で大混乱が起きるのか、強い軍隊・核兵器も持っている。軍国主義の道を歩んで行くのか。習近平国家主席自身も判らない。日本にとっては、結構問題であり、どう対処していくのか、中国と付き合わない訳には行かない。 今後、中国はどうなるのか、日中関係はどうなるか、真剣に考えた上で、よりリスクの部分、特に、今多くの日本企業が進出しているが、今後中国ビジネスはどうなるのか、日中間の緊張は高まってくる。これらのリスクにも充分注意して付き合わねばならない。ではどうするか? 基本的にはあまり深入りせず程々に付き合う。企業も国家にしても過去の関係にしても深入りし過ぎか、ときに火傷をする事が多い。日本としては、今後の経済戦略、国際戦略は中国よりも、周辺国と付き合うほうが良い。安部首相は、歴史的にも領土問題のない周辺国タイ・ベトナム・インドネシア・インド・ミャンマー・フィリピン・台湾などと付き合う方がよい。 マスコミは中国・韓国との付き合いをどうするかと言っているが、領土問題や歴史問題があるがほっとけばよいと思います。ロシアとは領土問題があるが、話し合いで決着が付けば、友好関係は問題ないと思う。皆さんご清聴有難うございました。 |
平成25年6月 講演の舞台活花
活花は季節に合わせて舞台を飾っています。
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