第5回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
平成22年10月21日
西洋絵画に観る生老病死の世界
~今だから話せる大塚国際美術館創設裏話~
大塚国際美術館学芸室 室長
平田 雅男 氏
講演要旨 仏教の四苦である「生老病死」はどんな人間にも共通した永遠のテーマ。 世界初のセラミックアート美術館である大塚国際美術館は、展示作品の二割以上が宗教絵画。 西洋人と日本人の死生観や人生観等の違いを比較宗教学の立場から鑑賞しましょう。 |
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1.はじめに 運(うん)・縁(えん)・恩(おん)この場で皆様とお話が出来るのは、いい運に恵まれ、皆様とのご縁が出来たことになり、皆様が私の話を聞いて美術館に来て頂ければ、恩に思うということになります。 2.大塚国際美術館の概要と創設の意義 「大塚国際美術館」は、大塚グループが創立75周年記念事業として徳島県鳴門市に設立した日本最大級の常設展示スペースを有する「陶板名画美術館」です。 当美術館は瀬戸内海国立公園内にある為 自然公園法・文化財保護法・その他各種の規制があり、関係省庁との折衝には大変な苦労がありました。 平成4年大塚製薬の創始者大塚氏の命を受けて、このビックプロジェクトの創設に関わることになりました。総工費420億円をかけて平成10年3月に創始者が生れた故郷の鳴門市に完成しました。 延べ床面積約9,000坪、敷地面積は約21,000坪あり、日本で最大級建築の美術館で、歩くと4kmあります。 絵画は、東京大学副学長だった青柳先生に選定委員長をお願いし、古代・中世・ルネッサンス・バロック・近代・現代の6ジャンルの著名な先生方にお頼みし、絵の選定基準は、日本人が見ても、懐かしい・楽しい絵を選んで参りました。 中身は全部信楽町で焼成した世界初のセラミックアートミュージアム(陶板美術館)であり、絵は陶器の板で出来ており、原画ではありません。全てレプリカですが、限りなく原画作品に近い陶板(セラミックアートボード)で出来ています。 ヨーロッパを中心に世界25ヶ国、190余の美術館・博物館と知的財産権(著作権・肖像権・版権等)の獲得については国際弁護士らを通じて交渉し、300億円も使いました。 撮影したフイルムを滋賀県信楽町へ持ち帰り、大塚オーミ陶業(株)の優れた技術で陶板に焼付け、原画作品を持っている美術館の館長や学芸員らの厳しい検品を受けて、原画と比べても決して劣らない作品に仕上がっています。原画はいつか朽ち果てるものでありますが、陶板画はセラミックアーカイブとして永久に残り人類の子々孫々にまで伝え遺すことがでます。 3.三つのユニークな展示方法 「環境展示」「系統展示」「テーマ展示」全部で1,074点を常設展示しております。 ①「環境展示」 世界遺産の古代遺跡や教会内部など、原画のおかれている状況を現地の環境を忠実に、原寸大で立体的に再現しており、現地に行った雰囲気を体感することができます。また現場の臨場感も味わう事ができます。 システィーナ礼拝堂、スクロヴェーニ礼拝堂、カッパドギア遺跡、ポンペイ遺跡など12点あります。 ヴァチカン市内のシスティーナ礼拝堂の壁画には約400の人体が描かれています。天国へ向かう人の群れと、地獄へ向かう群れとに別れており、中央には天使が描かれています。ミケランジェロの死生観が一目瞭然です。彼は地獄に行く人のほうが多いと考えていたようです。この世にいる人々は、生老病死の世界は誰もが共通する悩みです。仏教の永遠のテーマ四苦八苦といいますが、生老病死の四苦に愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五陰盛苦の4つを加えて八苦といいます。 ②「系統展示」 古代から現代までの約4,000年間を、古代・中世・ルネッサンス。・バロック・近代・現代の6つの時代順・時系列に分けて約940点を配置し、西洋美術史や世界史を歩きながら原寸大で学ぶ事ができる展示方法です。 ◆古代(BC16~AD4世紀頃) ギリシャの壷絵、ポンペイの遺跡、モザイク画など130点 ※パトロクロスとアキレス 生れたばかりのアキレスを母テティスは、不死身の身体にするために冥府を流れる川の水に息子を浸しましたが、かかとを掴んでいたために、そこだけは水に浸からず防護できない弱点になりました。この話はラフカディオハーンの「耳なし芳一」の話とよく似ています。 ※飛び込む男 三途の川に飛び込み、此岸から彼岸に向かう様で、過去世、現世、来世の思想があります。日本人の死生観では、三途の川の存在を信じている方のほうが多いようです。 ◆中世(4~14世紀) イコン、聖堂の壁画など100点 当館は宗教画が2割以上という美術館です。ミッション系学校の訪問が多いです。 ※紅海を渡るモーゼ 映画の十戒で観た内容が絵に出てきます。 ※最後の晩餐 中央の皿に魚が載っています。西洋でもおおっぴらにイエス信仰が出来ない人たちが、ギリシャ語で、イエス・キリスト・神の子・救世主の頭文字をつなげるとイクトゥス=魚という単語になり、キリスト教徒のシンボルとしていたと考えられます。 ◆ルネッサンス(14~16世紀) ボッティチェッリ、レオナルド・ダ・ビンチ、ミケランジェロ、ラファエロなどキリスト教の宗教画など140点 ※受胎告知 受胎告知に関連する作品ばかりの部屋で、画家によって表現方法がいかに異なるかが判る「テーマ展示」の一つでもあります。 ※ヴィーナスの誕生 西洋美術において、初めて女性の裸を描いた画期的な作品です。ヴィーナスは血の泡から生れたと言われています。 ※バベルの塔 人類が傲慢にも神々に近づこうとして塔を建てはじめたが、神の怒りに触れて人々の言語を混乱させ、人々が互いの意思疎通が出来ないようにさせた結果、バベルの塔の建設を途中で終わらせたという旧約聖書の創世記にある物語です。 ※最後の晩餐 最後の晩餐は修復前と修復後の絵を展示してあります。ダビンチの原画イメージを取り戻す事が目的です。キリストの口が開いていた事も分かりました。この絵から作られた本や映画がダビンチコードです。 ※モナリザ モナリザのモデルについてはさまざまな謎を秘めている絵です。自画像ではないかとも言われています。イタリア人が描いた作品がフランスのルーブル美術館にあるのも不思議です。 ◆バロック(17~18世紀) レンブラント、ベラスケス、リューベンス、ゴヤなど120点 ※目をつぶされるサムソン ユダヤとパレスチナの争いは旧約聖書の2,000年前からあった事になります。 ※真珠の耳飾りの少女 ◆近代(18~19世紀) ミレー、ルノワール、ゴッホ、セザンヌ、ゴーギャン、ムンクなど300点 ※民衆を導く自由の女神 ニューヨークの「自由の女神」モデルになったものです。 ※落穂拾い 一枚の絵から当時の王侯と農奴の身分関係とか農婦の服装・習慣的なものや植物などが分かります。一枚の絵には哲学・歴史・文学・宗教・産業・語学等いろんなことが包含されています。 ※ピアノに向かう二人の若い娘たち ※ひまわり ※叫び ◆現代(20世紀) ピカソ、ミロ、ダリ、モリジアーニなど100点 ※窓辺に座る女 ピカソ美術財団との交渉では陶板にすることが理解できない様でしたが、現物を見せたことで納得し、交渉は成立したことは成果でした。西洋美術史の現代美術で、パブロ・ピカソを解説せずには成り立ちません。 ※ゲルニカ ピカソの反戦画の代表作 4.上映された映画・イベント ※「バルトの楽園」 第一次世界大戦中の徳島県鳴門市の板東俘虜収容所が舞台で収容所所長・松江大佐の活躍や、捕虜となったドイツ兵と地元の住民の交流などを描いた作品。松江大佐は捕虜に対し日本には武士道があるとして、人道的な扱いを心がけ、捕虜による楽団が『交響曲第9番歓喜の歌』を日本で初めて演奏しました。 ※「眉山」さだまさし 「阿波DANCE」などの映画は、好評でした。山本寛斎を呼んで展示会もやりました。N響コンサートや歌舞伎上演や「王将戦」など各種イベントがあります。 5.さいごに 「兆し」という漢字には、しんにゅうをつけると「逃げる」になり、てへんをつけると「挑む」となります。皆さんには「逃げる」ことなくぜひ「挑む」人生を選んで下さい。 |