第1回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA大ホール
平成22年5月20日
変化するアメリカと日本の今後
オバマ大統領の多様性に期待する




同志社大学法学部教授 博士
村田 晃嗣 氏

講演要旨

2010年は、日本で7月に参議院選挙、11月にアメリカで中間選挙と、日米共に重要な内政上の転換点に当たる。しかも、日米安保条約改定50周年と、日本外交にとっても節目に当たる。
こうした内外情勢を分析しながら、より長期的な視点に立って2010年の意義を考えてみたい。

 

はじめに
 アメリカがどうなっていくのか、日米関係がどうなっていくのかというテーマでお話させて頂きます。
さて、昨年の1月にバラク・オバマ氏が大統領に就任しました。歴史上初めての黒人の大統領が就任したと言われますが、歴史上初めて非白人の大統領が就任したという意味の方が大きいと思います。
アメリカの人口は増加しています。日本は少子高齢化で人口は減少していますが、アメリカでは40年後(2050年)には現在3億人の人口が4億人に、1億人増加すると言われております。理由は毎年90万人の移民があり、40年後には白人の比率が50%を切ることになり、将来、アメリカは白人の国とは言えない事になります。
今回のオバマ氏の登場は単に黒人がようやく大統領になったということもありますが、白人でない人が大統領になったことの方に意味があり、21世紀には女性の大統領が誕生すると思いますし、ヒスパニック系の大統領やアジア系の大統領が登場すると思います。アジア系の場合は日系アメリカ人ではありません。
現在日系アメリカ人は80万人、中華系アメリカ人は200万人以上、韓国系アメリカ人は100万人以上です。近い将来にチャイニーズアメリカ人の大統領が登場するだろうと思います。

 このことはアメリカだけではありません。ロシアでも中華系の人々の比率が増加しており、将来ロシアに中華系の大統領が登場するかもしれません。それほど中国系の人口増加は世界的な現象であります。

アメリカの現状
 去年の1月に、オバマ大統領が就任した時の支持率は70%を超えていました。ところが70%がいつまでも維持できるはずがありません。オバマ大統領が就任した時、アメリカは内外共に大変な時期でして、国内の経済問題は深刻でしたし、国外ではアフガンでの戦争、イランの核開発、北朝鮮問題を抱えていました。
去年の10月にアメリカでは26年ぶりに失業率が12%となった。そのことで、翌月の11月には大統領の支持率が40%を切ることになりました。今年になって国民健康保険の法案もようやく通って、少し持ち直しましたが、現在は大統領の支持率と不支持率が拮抗する厳しい状況にあります。
今年の11月には中間選挙があります。もしオバマ大統領率いる民主党が負けると、ますます議会運営が難しくなって、大統領は国内政治に没頭することになり外交に多くのエネルギーを裂けないことになるかも知れないというのが今のアメリカの現状であります。

日本の現状
 同じく去年8月には日本でも衆議院議員の選挙があり、それまでは152議席であった野党の民主党が308議席をとって大勝し、そして与党第一党となりました。一方で300議席あった自由民主党が119議席しかとれずに大敗しました。
去年の9月には鳩山内閣が誕生して歴史的な政権交代だと言われています。野党が政権をとったことは戦後3回目であります。

 昭和22年(1947年)衆議院総選挙で吉田茂氏の率いる自由党が第一党であったが、過半数を割ります。このときは社会党の片山哲氏を中心にした連立内閣が誕生しました。

 1993年(平成5年)宮沢喜一首相が内閣不信任となり解散総選挙後、細川護熙氏との連立内閣が出来ました。そして去年の夏ですから3回目であります、ただし、総選挙の結果、与党第一党が入れ代わって政権をとったのは初めてであります。

 日本の民主党のことを悪く言う方々は、民主党は政策もイデオロギーもないバラバラの寄合い所帯の政党ではないかとよく言われます。その通りであります。
しかし、民主党がバラバラなら、自民党はモットバラバラであります。自民党は郵政でも憲法改正でも意見の違う方々が自民党にはおられます。日本の政党は人間関係やその時々の政治状況で纏まっているのであってイデオロギーや政策で纏まっているとはいえない、日本の政党で、明確にイデオロギーや政策で纏まっているのは日本共産党だけであります。

自民党長期政権の理由
 1955年の保守合同からバラバラの自民党が戦後50年以上も与党でいられたのか考えてみたい。理由は3つあると思います。

 ① 戦後国際的には、アメリカとソ連が軍事力・経済力・イデオロギーなど色んな点で対立する米ソの超大国が長らく冷戦状態にあったこと。核兵器を持った超大国の間で冷戦状態にあるときに、力の及ばない日本のような国家はどうする事も出来ません。米ソの対立ということを前提にしたとき、日米関係の中で戦後の日本の繁栄と安全があったのですから、自民党以外の政党に投票したら日米関係はだめになる、ということで積極的というよりも消極的な意味で自民党に投票してきた。これが自民党の長期政権を維持した理由の一つであります。

 ② 1960年 池田勇人氏が政権の座についた。この時「10年間で所得を倍にします、経済は池田にお任せ下さい、池田は嘘を申しません。」と言って総理大臣になった。彼のブレーンに下村 治氏がいて日本経済は成長すると主張した。
池田勇人は10年後の結果を見ることなく他界したが、結果から言うと1970年に国民所得は3倍になった。60年代から70年代80年代に貿易黒字が続き、世界中から非難されたが貿易黒字は減らない、いわゆる奇跡の経済成長といわれる高度経済成長の時代であった。このような時代に、政治の仕事は増え続ける富を不公平感なく、再配分することであります。大企業を保護し、労働組合の言うことにも耳を貸し、大都市に限らず地方にも大規模な公共投資を行い、みんながハッピイなわけですから、毎年増え続ける富を財界の協力を得ながら優秀な官僚の手助けを得て富の再分配をする、という政治は単純な仕事をしてきました。これが自民党の長期政権を維持した第二の理由であります。

 ③ 昔日本は世界でも珍しい中選挙区制であった。これは一つの選挙区で3人から5人の候補者が当選する、即ち一つの選挙区から自民党が二人当選し、残りを野党がとる、或いは自民党が三人当選し、残りを野党がとるというパターンであります。
一つの選挙区から自民党の候補者が二人以上当選するということは、単に自民党というだけでは無く、自民党の中の派閥が応援する候補者が当選する事になり、派閥は出来るだけ仲間を増やすことによって派閥の領袖であるボスを党首にし、更に日本国の総理大臣にするのですから、自民党の派閥が機能したのは一つの選挙区で二人以上の自民党の候補者がおり、派閥が候補者を応援するからお互いに競争することになります。派閥が競争することにより、常に自民党は内部に緊張感を持って活性化する仕組みでした。

 これ等の3つの要素はここ20年間で悉く消えて無くなった。
 ■ 米ソの冷戦が象徴的に崩壊するのは1989年11月9日にベルリンの壁が壊された時であります。同時多発テロの2001年9月11日に世界が変わったと言う人がいますが、ベルリンの壁崩壊の方が国際政治にとって大きな意味があります。1991年12月にはソ連という国そのものが消えて無くなったので、米ソの冷戦状態は無くなりました。
 ■1990年代の初頭にはバブルが弾けて、高度経済成長は無くなりました。
 ■1994年には制度改革で小選挙区制になったので、それからは自民党か、野党かということになりましたので、派閥の競争では無くなりました。このように、1989年から5年間でそれまで自民党の長期政権を可能にした要素は全て消えて無くなりました、その頃から自民党に変化が現れてきました。

自民党の変容
 その際たるものが、国会議員の世襲化であります、アメリカにも世襲議員はいますが、数も少なく、国民は問題にしていません。日本とは大きな違いがあります。世襲が悪いとは言いませんが、しかし、国会議員の世襲は家族が既得権益を守ろうとするのであり、役人の天下りは組織で既得権益を守ろうとするもので、これらは構造的に同じであります。

 同様に全国には47の知事がおり、その3分の2が中央官庁出身の方々です。しかもその半分は東京大学法学部の出身であります。ここでの問題は、人材の供給源が歪であることが問題であります。何故地方の官庁から優秀な人材が育てないのか、多くの知事が中央官庁出身ということは中央とのパイプを維持しようとする思惑があるからで、このことは究極の天下りと同じことであります。

 さて、国会議員の世襲化が進むとどうなるかを考えます。新しく若い優秀な人材が与党自民党から出馬しようとしても、地縁血縁で繋がっており、仕方なく民主党などから出馬することになります。志のある優秀な人材が野党にシフトします、その結果、昨年の衆議院選挙で自民党は負けてしまった。

 私達は、新しい人材を育てる仕組みを考え直す必要があります。
オバマさんの様にシカゴの黒人の貧民街でボランティア活動をしていた人が、才能があり弁舌さわやかで、人々にアピールする力があれば、わずか2年の上院議員の後に47才でアメリカ大統領に就任した。アメリカは人材供給の仕組みを持つ国であります。
 このことは我々に優秀なリーダーをどうやって育てるか、問題提起してくれていると思います。人材の動脈硬化を起して、この国を変えようと志のある人の出る場が無いことです。

 去年の衆議院選挙で民主党は147人の新人議員が当選しました。従来新人議員は普通選挙全体で100人程度ですが、今回は民主党一党で147人の新人議員が当選しました。
もうお気づきと思いますが、この次の選挙では、この国を変えようと思う志のある若い優秀な新人は与党民主党から立候補できなくなります。今度は自民党から立候補することになり、3年から4年後には優秀な人材が今度は民主党から自民党にシフトすることになります。

 今後の日本の政治にとって大事なことが2つあります。
 一つ目は自民党が本当に再建できるのかどうか。
 二つ目は民主党が本当に名前のとおり民主的な政党になれるのかどうか。

 民主党は事業仕分けをしていますし、予算を公開してやろうとしています、外務省の色んな密約を公表しようとしている。民主党は政府の中を透明にしようとしている。この事は非常に評価しています。であれば、政府を透明にするなら民主党の中も透明にして欲しい、小沢幹事長にどれだけの権限があって、鳩山代表とはどのような関係にあるのか、民主党のどの組織が何を決めているのかはっきりして欲しいと思います。

去年8月に国民は、まさに言われていたように、いつでも政権交代ができる2大政党制を望んで民主党に投票した。その為には野党がしっかりしなくてはなりません。本当の民主的な政党になれるかどうか、自民党が再建できるかどうか、日本の民主主義の将来がかかっています。今の日本の政治にとって重要な問題ですが、2つ共きわめて難しいと言わねばなりません。

難しい理由一つ
 自民党の衆参両院の国会議員の中で20代の議員は1人だけ、30代は併せて6人です。自民党の国会議員の半数は60才以上、4割は65才以上です。65才は一般に言われる高齢者であります。年齢のことを問題にしているのではなく、組織の中での構成割合であります。前回の衆議院選挙で小選挙区や比例復活で当選した人の内60代半ばから70代近くで当選した人は4年後引退しようと考えています。しかも前回は負けましたが自民党は与党であり、経団連も経済同友会も医師会も歯科医師会も農協も応援してくれたが、次回は応援してくれませんし、自民党が野党であります。

 政党や会社や役所・大学などの凡そ組織と言うものは毎年何人かの方が退職し、新しい方を迎えて、常に組織が一定の活力を持ちながら保つています。自民党のように3割の方が今期限りで引退して幸せな老後を迎えようと考えている組織に自己改革は出来ません。自己改革をして生き残らなくてはならないのは20代30代の議員ですが7人しかいません。自民党はもう一度若い人たちにゆだねて、大幅な世代交代をして活性化できるかどうかが問われています。このように日本の政治は多事多難な状況におかれているのです。

日米関係の中での普天間の問題
 これだけ大騒ぎしたのに、結局もともと自民党が日米合意した案に戻ろうとしています。2006年に日米両政府が合意した案は、日本政府が地元に経済振興策を付けることを条件に、名護市は苦渋の決断をして、辺野古の沖合に基地受入れを決心しました。ここに日本・アメリカ・名護市・沖縄県の4者の意見が奇跡的に辺野古のV字型賛成で一致した。鳩山首相はこの奇跡の一致を一から見直すと言った去年1月の選挙で、基地受入れ反対の島袋市長が当選したので、もう名護市は基地受入れに反対、従って沖縄県知事も地元が反対なので、沖縄県も反対であります。鳩山首相は地元に対してリップサービスをしたが為に地元に対して最も残酷な結果を生んでしまった事になります。しかもその間に日米関係の信頼は大きく傷ついた。
 日本の民主党の方々で、日米関係は普天間の基地の問題だけではなく、モット幅広い協力関係なのだから、広い視点で日米関係を見なくては困ると言われる方がおられますが、その通りであります。この普天間の問題では日米関係の信頼を失ったことになります。その影響が出ており、オバマ大統領は兼ねてから核の廃絶を言われ、今年4月核安保サミットを呼びかけ47カ国が集まり米国ワシントンで開催いたしました。そのとき、オバマ大統領と中国の温家宝国家主席は公式会談を持ちましたが、鳩山首相はオバマ大統領に日米会談を申入れたが大統領の日程調整がつかず、晩餐会の席でオバマ大統領の隣に座ることで耳打ち話をすることになった。明らかに日本外交と中国外交は明暗を分けた、日本外交の明確な失敗だと思います。今回の核安保サミットで、ニューヨークタイムズはこの会議の勝利者は中国だと報じました。さらに、この核安保サミットは次回2012年に韓国のソウルで開催されます。世界で唯一核被爆国日本、戦後一貫して核軍縮を唱えてきた日本が第二回の開催地を東京でもなく、広島でもなく、長崎でもない、韓国であります。このことは日本外交の屈辱的な二重の敗北であります。オバマ大統領を広島に呼ぶなどと言うのは夢物語であります。
 日米関係は戦後60何年間、政治家だけでなく、財界人・学者・芸術家・労働組合・NGO・市民団体・学生など色んな人たちが、日米両国は太平洋を挟んで交流と協力を積み上げてきた豊かな協力関係があります。日米関係には善意の貯金があります。この貴重な善意の貯金を普天間の問題でかなり大幅に無駄に使われた。このことを我々は深刻に受止め二度とこのような愚かな過ちを繰返さないように反省しなければなりません。
 2010年アメリカでは中間選挙があり日本でも参議院選挙があります。この二つの選挙の結果によっては更に混乱することになるかもしれない。日米両国は非常に重要な国内選挙を抱えています。

世界第二の経済大国が中国に入替わる
 2010年は日本の国内総生産GDPが中国の国内総生産に抜かれることが確実、つまり今年中に日本は世界第二の経済大国ではなくなる。1968年にドイツを抜いて世界第二の経済大国になった。しかし二度と再び世界第二の経済大国にはなれない。更に10年後には倍の差がつく、更に10年後にはインドに抜かれる。このことは歴史の必然です。産業革命により近代化して大国になったが皆が近代化すると産業革命以前に逆戻りする。どんな国が大国かといえば、領土や鉱物資源の多い国が大国になるのは自然のなりゆきです。日本は領土が小さく資源のない国が世界第二の経済大国を維持することはできない。

 さて、鳩山首相は政治にとって言葉の重みをダメにしました。オバマ大統領にはリーダーの言葉の大切さを教えられています。この一年半、日本や世界が経験してきたことは100年に一度の経済危機といわれるが、経済学的な根拠はどこにもありません。グリーンスパン氏は100年に一度の経済危機といってない。本当は100年又は50年の経済試練の時と言っているのであります。日本は100年に一度の経済危機というよりも、100年に一度の人材不足である。日本にある資源は人だけであります。

 明治維新の時も日本を欧米諸国の植民地にさせなかった多くの人材がいたし、昭和20年の敗戦のときにも人材がいた。ジョージ・アリヨシが進駐軍として彼の祖父・祖母が生まれ育った美しい国日本にきた。誤った戦争で悲惨な状態の東京にきた。ジョージ・アリヨシが日本に来て、日本人の少年が靴磨きをさせてくれといって、靴磨きをさせた。その時与えたパンをその少年は空腹なのに、自分よりも空腹で待っている6才の妹に与えようとしてしまいこんだ。この妹を思いやる気持ちがある少年のいる日本は必ず復興すると確信をした、と言う話があります。その通り戦後日本は復興しました。

 現在、日本のおかれている経済状況・政治的閉塞状況の中で政界・財界・学界・教育界・労働界などあらゆるにところで深刻な人材の不足がおきています。今この段階で、民主党や自民党などの主要政党がいぜんとして、候補者にタレントやスポーツ選手の人気に頼らなければならないと言う事では失望を禁じえない。

 日本は100年に一度の人材不足に直面している。そのことは深刻であると申し上げましたが、日本にある資源は人だけであります。日本がもう一度人材育成に努力すれば21世紀の日本は決して暗いものではないとおもいます。





平成22年5月 講演の舞台活花



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