平成19年度
熟年大学
第八回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA小ホール
平成20年1月17日
変わりゆく天王寺動物園
~動物園に今求められるもの~
大阪市天王寺動植物公園事務所
天王寺動物園長・医学博士
宮下 実 氏
講演要旨 戦前の見世物的な動物園から、今や環境学習の場として天王寺動物園は大きく変化しました。 動物の生息環境を再現したアフリカサバンナゾーン、アジアの熱帯雨林ゾーンで地球環境への関心を高めてほしいものです。 |
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今日のお話は、天王寺動物園がこの13年間に非常に変わった・・・そういうところを皆さんにご紹介したいと思います。 それを知っていただいて、お子さん、お孫さん、あるいはお誘い合わせでぜひ天王寺動物園をご覧いただけたらありがたいな・・・との観点からお話を進めさせていただきます。 実は今日のお話のタイトルをつけたのが一年二か月前でしたので、少しわかりにくいところがあります。 そこで、本日のタイトルを「天王寺動物園が変わった」~大阪のど真ん中にサバンナが!~としたいと思います。 このタイトルは二つのキーポイントを売りにしています、 一つは、いま大阪の地下鉄に乗って下駄履きでサバンナが見れること、そしてもう一つは、500円のワンコインで一日ゆっくりアジアの熱帯雨林を見たり、サバンナの自然環境を満喫できることで、そういう動物園施設を作ってきたお話です。 1.動物園の歴史とその役割 皆さんはこの(→)写真で、どちらが天王寺動物園かお分かりになりますか? ひとつはマサイマラ野生動物保護区、他のものはンザビ国立公園とありますが、実は、ンザビとは私たちが名づけたネーミングで、こちらが天王寺動物園です。 いま天王寺動物園のキリンのいる場所には、土があります、樹木があります・・・そういったサバンナを再現した場所でキリンをお見せしています。 このように天王寺動物園は、実際の野生動物保護区と比べても遜色のない素晴らしい施設を作ってまいりました。 (世界の動物園の歴史と動物園の定義付け 省略) 2.天王寺動物園の今昔 天王寺動物園は1915年(大正4年)に開園しました。大阪府より動物施設を今の天王寺の場所に移管、日本で上野動物園、京都市動物園についで三番目の動物園です。 それ以前の歴史は、明治17年、現在の中央区内本町北詰に「府立大阪博物場付属動物檻」が開設されたものが前身です。 昭和9年(1934)には、開園以来最高の250万人もの入園者があり、そのころは、飼育動物数、入園者数、動物園面積ともに、上野、京都を凌ぐ日本一の規模でした。 したがって東洋一の動物園とも言われていた時代です。 タイから贈られた象や数多くの動物のなかでも、リタと呼ばれた雌のチンバンジーが全国の人を大阪に集めるほどの人気を博しました。 その芸達者ぶりはたくさんの写真に残っています。 ところで、皆さんのなかで昭和15年まで生きていたこのリタの実物をご覧になった方がおられますか・・(4名が挙手)。 すごいですね・・後でまたお話を聞かせていただきたいものです。 この頃から、日本の状況は戦争が始まり悪くなります。チンパンジーに銃や軍服やガスマスクを着せたりして、まさに戦意高揚にも動物園の動物が使われた時代となります。 さらに餌の状況が悪化し、「動物園非常処置要綱」の制定により、動物の命も大切ながら人命優先で、昭和18年9月から翌年3月にかけて天王寺動物園でも猛獣類の処分をしました。 昭和20年の終戦時の天王寺動物園は、ニワトリ、アヒル、孔雀、ブタ等が主体の家畜園とか静物園などと言われたくらいです。 昭和25年~35年にかけた復興期として、昭和25年から象、チンバンジー、トラ、ライオン、ヒョウが海外から到着します。 その時来た象の春子は60歳となりましたが高齢ながら今も健在です。 昭和36年から、大正時代以来の施設の作り直しが始まり、近代的動物園の施設となりますが、昭和50年代半ば頃まで、「動物園の役割り」としては、レクリエーションと教育の場、野生動物を研究する場、自然保護の場への4つのコンセプトが言われていましたが、昭和50代の終わりころに、もう一つ、自然認識の場の役割が加わりました。 昭和55年(1980)に国際自然保護連盟(IUCN)が ①野生動物の飼育は良好な飼育管理と、増殖計画によって種保存に貢献すること。 ②野生動物の展示は、丹念な教育計画により、展示動物が生態系で果たす役割を理解させること・・・の勧告をだし、それに従って殆どの動物園が取り組みを、種の保存と環境教育を動物園の大きな柱とし、私たちもこの柱を表にだしながら、動物園を作り始めています。 今年の年間の目標入園者は200万人、15歳以下及び(市内在住の)65歳以上は無料です。 飼育動物は哺乳類から、昆虫、無脊椎動物まで約230種1000点です。 面積は11ヘクタール、決して広くはありません。 3.天王寺動物園の将来計画「Zoo21計画」の誕生 この流れのなかで、これまでの分類学的展示から、生態的展示の手法にしようと天王寺動物園は計画を変えました。 Zoo21の目的は、自然を満喫していただく、貴重な緑のオアシスをうまく使って、市民の方に憩いや潤いを提供しよう、さらに、野生動物の生息環境を再現することで、お客さんに自然環境に関心をもっていただき教育効果を高め、種の保存につながる保護増殖をする・・・この三つの計画が狙いです。 4.「Zoo21計画」の生態的展示とは・・・ 動物園のなかに、野生動物が棲んでいる環境を再現し、そこで動物を展示しようという手法です。 これは(←)アジアの熱帯雨林の象舎です。地面は土です。周りの緑を活かし、ここを熱帯雨林として再現しています。 アフリカサバンナにいるキリンも然りです。 5.天王寺動物園の新しい施設 生態的展示が野生動物の棲息環境を再現すると申し上げましたが、実はもうひとつ、生態的展示をするなかで人と野生動物のかかわり合いを展示しようとの狙いをもって取り組んでいます。それが地球環境を考えるキッカケになるだろうとのコンセプトです。 基本計画の作成が平成6年度、まず爬虫類館をつくり、平成9年にカバ舎、平成12年度にキリンやシマウマの草食動物ゾーン、象舎のあるアジアの熱帯雨林ゾーンが平成15年度、それから平成18年秋にアフリカ・サバンナゾーンができました。 (カバ舎、象舎などの景観や工夫展示のスライド解説⇒省略) 6.動物園の目指すもの こういった状況のなかで、天王寺動物園のZoo21計画はやっと35%程度が完成したにすぎません。 あと残りを完成させるには、200億円くらいかかります。 そこで各種団体を訪問して協力をお願いしていますが、そのなかで今年動物園歴93歳、とにかく動物園をご覧いただければ、どれだけ変わったか、皆さん方の希望者を募って動物園の見学会などをしていただければ動物園クルーズのガイドもします。 7.動物園での新しいビジネス展開 動物園の増収計画のために、新しいイベントの企画やネーミングライツ、そのほか昨年の10月から動物園サポーター制度を実践しています。 一口個人会員5000円、団体会員50000円で、3か月半経った今では、個人会員は300人を越えました。 阪神高速道路が、動物園を横切っていますが、共同企画として、遮音壁にサバンナの景観を描いて雰囲気を作ろうと考えています。 大阪芸大の学生に下絵を描いてもらいましたが、事業費がまだ捻出できずにいます。 動物園は楽しく喜んでいただければ一番ありがたいと思っています。 もちろん地球環境を考えることも一番ですが、そんな難しいことを考えず動物園に来たら楽しかったと思っていただける動物園を今後とも作っていきたいと思っています。 |