平成19年度
熟年大学
第五回
一般教養科目公開講座
於:SAYAKA小ホール
平成19年10月18日
時代の風をどう読むか
~世界と日本はどこへ行く?~
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
浜 矩子 氏
講演要旨 21世紀という時代の風はどこから吹く風なのか。 誰が吹かせた風なのか。 その風に乗っていいのか、逆らうとどうなるか。 時代の風の力と方向を考え、今日的時代状況を見極めて、世界と日本の明日を展望します。 |
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お話の出発点として、今の時代はまさにグローバル時代と言われており、グローバルという言葉を耳にしない日はありません。 いま我々が生きているグローバル時代とはどういう時代なのかキチンと考えていかなければなりません。今日はその辺りからお話します。 まず資料の 1.再び来たグローバル時代 について、よくよく考えると、かってグローバル時代があって、いま再びあるのは、第二次グローバル時代の到来と思っています。 ●第一次グローバル時代、地球が大きくなった時 この時代の風は、15世紀ないしは16世紀あたりではないかと思います。この風を興した存在は帆船でした。 世界の冒険家、探検家、それに海賊たちが遠くへ船出し、新しい大陸が発見された時代です。 この時代の特徴は地球がどんどん大きくなっていった時代です。 つまり地平線の広がる大航海の時代です。 ●第二次グローバル時代、地球が小さくなった時 ところがこれに対し今我々があるところの21世紀は、地球は逆にどんどん小さくなっていく時代です。テレビでは地球の裏側の状況もリアルタイムで我々の目に入ってきます。e/mail等の通信手段では、瞬時に交信をすることができます。 飛行機で地球の裏側にもひとっ飛びで行ける時代で、第一次のグローバル時代と正反対に、地球が縮まってくる時代で、第一次のグローバル時代と正反対に、地球が縮まってくる時代が今なのです。 それでは地球が小さくなる経済現象とはどんなものでしょうか。小さい地球にはどのような風が吹いているのか本題に入ります。 2.時代の風はジャングルの風 日本経済は、重いデフレ病の長期入院中であったという感じですが、ゼロ金利から不良債権処理などいろいろな支えによって治療をし闘病していた状態から、一応は退院となってきていると言えるかと思います。 ●病院をでればそこはジャングル しかしそこにはどういう地平線が広がっているかですが、それはまさしくグローバル・ジャングルの風景ではないでしょうか。 大競争、弱肉強食、淘汰の論理が地球規模で展開する厳しい日本経済の状況にあるのです。 ●グローバル・ジャングルは人間ジャングル それは人間たちが構成するジャングルです。 その掟は格差を生む力学です。 この格差が日常用語として定着しています。 グローバルジャングルの吹かせる風が、日本社会に横並びから縦並びの格差状態をもたらしたものです。 企業としては、生き残り勝ち残りのために何をせざるを得ないか、それは人を選別するということをやらざるを得ず良い人は選別する、悪い人は切り捨てざるを得ない形で効率をあげ競争力を高めなければ、このグローバルジャングルの淘汰のなかで生きていけないのです。 まさに格差を呼び込んでくる風、それがグローバルジャングルの風です。 3.時代の風はインフレの風 その格差の風をひしひしと感じている間に、新しい風が起こってきています。 その別の風とは、インフレの風です。 このデフレの10年のあいだに強いグローバルインフレの風が吹き始め、80ドル台の原油、金の価格上昇、大豆やトウモロコシ、天然資源の価格も上がっています。 この風をどういうふうに読むかもこれからの大きなひとつの課題です。 ●世界は奇妙なホットプレート 資源インフレの言葉がふさわしい今日の状況ですが、それに関連して言えるのは「世界は奇妙なホットプレート」ということです。 ホットプレートは均等に熱が伝わらないことがあります。いまはこのグルーバルホットプレートに似ています。 ●熱い国の中国、寒い国の日本 ホットプレートとの過熱している部分が育ち盛りの中国経済です。これが資源インフレを齎す状況です。 他方、温まってこない部分に居るのが我ら日本です。 久々の長期回復景気を謳歌していると言われていますが、その恩恵を受けている実感をもたれる方がこの部屋にどのくらいおられるでしょうか。 全員参加型でない景気が今の景気の特徴で、いざなぎ越えの長期景気拡大と言うよりは、排除されている人達が多く、景気拡大の冷たいホットプレートでは、大勢の人がその部分で足踏みをしています。 なぜ、我々のいるところが温まってこないかは、57か月のいざなぎ景気の時は3C(Car,Cooler, Colour TV)を求める大消費の成長力を生みだしました。 その間80%の拡大をみたのに比較して、66か月続いているいまの景気拡大の間の成長率はたったの2%です。 前者が全員参加型景気に対し、今のは非全員参加型だからです。 何故か? それは格差の風が吹いているからです。 熱い国の中国の資産インフレの進行が、めぐりめぐって日本にも影響し、ものの価格を押し上げています。 これは怖いことです。 1970年代の大インフレ時代の、物価と賃金が押し合って全体的な上昇を見たコストプッシュ・インフレに比較し、グローバルジャングルの中で日本企業が勝ち抜いていくためには賃金を上げられず、賃金面での下方柔軟的な動きの中での物価上昇は、非常につらい新しい力学となります。 4.時代の風は日本から吹く風 ●寒い国が起こすインフレの風 このグローバルインフレを煽る要因があります。 そのもう一つの風が、過剰流動性インフレの風、つまりカネ余り現象下での物価上昇です。その出所が、寒い国の日本です。 ●寒い国が引き起こしたサブプライム危機 この奇妙な時代の風は、低金利の日本では、金利の高い海外での資産運用の動きがでます。 この選択によりJapan Moneyが、出稼ぎ流出で金利を稼ぐ日本発のYen Carry Tradeの過剰流動性インフレ風を吹かせてているのが今日この頃です。 5.時代の風はファンド資本主義の風 さらに今日的な風にはもう一つの大きな時代的風の特徴があります。 それがファンド資本主義の風です。 ●資本主義の時代 これにより資本主義が大きく変質したとの感じをもっています。 従来はこの資本主義を動か原動力は、資本と労働力の二本柱でした。 ところが、時代が下るとともに、第三の存在が資本主義の世界に出現しました。 その存在とは、経営者(お雇い経営者)の出現です。 グローバルの風が吹くようになると、資本家、経営者、労働者の構図の中に、さらに第四の勢力が出現します。 その存在とは、疑似資本家の出現です。 資本をもっている人たちから資本を集め企業に投資する疑似資本家の存在です。 その別名がハゲタカということになります。 この擬似資本家は、同時に疑似経営者の顔ともなります。 この時代の風にどう対応するか、これも大きな問題です。 ●国家がハゲタカになる時 さらに厄介なことに、国家がハゲタカ(疑似資本家)化することが全面的にでてきています。国富ファンドの Sovereign Wealth Fund と言われるものです。 北海油田を持つノルウェーやシンガポールがその例で、余った国のファンドの運用をしています。 さらに、最近の例は熱い国の共産主義一党独裁の中国が巨大な国富ファンドを興しています。 これもまた今まで考えられない風です。 その防衛としてナショナルスティックな閉鎖的な反応がでてくると軋轢が高まる厄介な方向性が出てくるわけで、この様な国家版ハゲタカファンドの風は注目すべきテーマだと思っています。 6.もう一つの資本主義 この資本主義は、もう一つの新たな展開を遂げようとしています。 日本の先行きにも大きな影を投じていくことにもなります。 ●新たな対立の構図 その1 労働対労働の対立がそれです。つまり正規雇用者と非正規雇用者の二元構図です。 正規労働者の賃金を引き下げる要因を非正規雇用者がつくりだし、それゆえに正規労働者の賃金が堅くガードされるから、いつまでもまともな良好な雇用環境のなかで働けないという今日的厄介な対立構図です。 ●新たな対立の構図 その2 さらに、その構図は、労働対労働対労働の三元対立の構図に変貌しようとしています。 なにかというと、移民労働の風です。 いまや日本社会のなかでも結構移民労働力が欠くべからざる労働として使われています。 欧州では特にこの移民問題が、悩ましい政策対象となっています。 厳しい痛みを伴う対立への発展をいかに阻み、全員参加のモチーフの中に、正規雇用、非正規雇用、移民労働も取り組めるような仕組みを作れるか、大きな政策テーマになっていくでしょう。 7.国家なき時代の国家の役割 ●今、官にできること 落ちこぼれを作らない平等を保障する民の処理、つまり弱者救済のテーマ、これこそが政治/政策が対応すべき問題です。 グローバル・ジャングルの淘汰の力学のなかでは、処理できない弱者の保護救済のレスキュー隊の役割が、官の社会政策、公共政策、公共サービスです。 ●郵政民営化への執念 民営化された郵貯銀行はひたすら儲けを追及する構図となりますので、伝統的な全国津々浦々に金融サービスを提供する小口預金者を暖かく抱き留めるという公益的なところはどんどん後退して、日本中に郵便を届ける業務も縮小するわけですから、これは完璧に本末転倒であったといえましょう。郵政事業の改革がすなわち民営化だとの大きな論理のすり替えが、どこかで起こった結果、改革とは逆行する巨大な郵貯が民営となるただそれだけの結果となります。それが格差拡大にさらに繋がっていきかねないということで大問題です。 8.時代の風とともに舞うには・・・ これまでのお話の流れにのってみると、よきエコノミストには三つの条件があります。 1.独善的であること⇒いつも自分だけが正しいと思っている 2.懐疑的であること⇒自分以外の人間はすべて間違っている 3.執念深いこと⇒絶対に敗北を認めない ということです。 だだこれだけでなく真偽を求める、時代の風を読む熱血、そして真偽の前に謙虚である思いがないと、最悪の人間になってしまいます。 そういった条件が整ったエコノミストが果たす役目はなにかというと、「曠野に叫ぶ声」が必要だと思います。 その曠野で何を叫ぶかと言うと、それは、王様は裸だという叫びです。 そのような発想からこれまでのお話をしてきたわけですが、最後に、このような怖いことが沢山あるなかで果敢にこの時代の風と共に天高く舞い上がるためには、どのような気構えが必要か、そしていかなる条件が整っているべきかをお話しします。 グローバル時代の風に乗って舞い上がるための気構えは二つあります。 1.ひとりは皆のため、皆はひとりのための精神 グローバル時代では、自分さえ生き残ればいいという発想は鬼門です。その意味で労働者を選別することは、その結果として非正規雇用者となって格差のどん底にいて、物を買えない人が増えるほど企業にとって競争環境が厳しくなります。 市場が小さくなり底なしの奈落に落ち込むことになります。 環境問題もいい例で、自分の国だけはいいと環境破壊を垂れ流すと地球破壊にいたることになります。 2.いかにうまく人の褌で相撲をとるかです。 ハゲタカもハサミを使いようで、彼らがもってくる資金、提供のノウハウを名鷹匠として、ハゲタカ達をいかに上手に使って生きていくかです。 これがグローバル・ジャングルを生き抜いていくための重要な技です。 人の褌で相撲をとるのが上手い三つの国があります。ルクセンブルグ、アイルランド、シンガポールです。その共通点は非常に小さい国であることです。 これだけではちょっと心許ないので、次の4つの条件が揃うと鬼に金棒となります。 時代の風に乗って舞い上がるその4つの条件とは・・・ ①財力、②知力、③愛嬌、④度胸です。 この4条件をグローバルジャングルを構成する国々にあてはまてみると、 アメリカ⇒①は世界最大の借金国、②は、大いなるXでしょう。 しからば③は、一国主義でありこれもダメ。 ④たちの悪い度胸はふんだんにあります。 では、中国 ①貧富の差はあるがなかなか国全体としてみれば次第に◎ ②底力あり ③不明ながら③と④を巧みに使い分ける力あり。 それでは我が国は ①は申し分ない。扁在する格差が問題だが世界で最大の債権国。 ②はこれも圧倒的に申し分ない。 問題は③と④、これがあまりうまくない。 この③と④をいかに強化するかで、日本が時代の風に乗って舞い上がることが可能かが問われるところでしょう。 この③愛嬌と④度胸をうまく組み合わせ、上手に人の褌で相撲をとり、大きな包容力をもち、ひとりは皆のための精神で歩いていくと、グローバルジャングルも結構面白いところであり、時代の風は我々を高みに上げてくれるのではないか、そのように皆さんで盛り上げていただくと、この時代の風も日本には結構優しい風になるのではないでしょうか。それを大いに期待することろです。 |