平成19年度
熟年大学
第二回

一般教養公開講座
於:SAYAKA小ホール
平成19年6月21日

 
日本の国境で今何が起きているか




日本財団
広報チームリーダー
山田 吉彦 氏

                    講演要旨

              

中国の東シナ海海底ガス油田開発、北方領土海域におけるロシア警備艇による根室漁民の射殺、北朝鮮貨物船の動向など日本を取り巻く海の情勢を具体な事例や海上保安庁、海上自衛隊の対応を含めて解説します。
                   

1.日本の周辺海域

         

(1) 日本の形

 日本の今の領土はどのように決められてきたのか? それは1951年のサンフランシスコ平和条約である。日本が明治期以降、武力をもって支配し新しく加えた土地は放棄しなければならないとした。具体的には台湾、朝鮮半島、南太平洋上の島々、千島列島である。

 日本の領海は1977年に国際慣行に則って12海里とした。例外として国際海峡を特定海域(宗谷海峡、津軽海峡、大隈海峡、対馬海峡西航路・東航路)として領海3海里までとしている。


(2) 日本の排他的経済水域面積

 日本の排他的経済水域面積は447万K㎡である。右の図で白に抜いた海域である。1994年、国連海洋法条約により200海里とされた。
この水域では、①漁業管理権 ②海底開発権 ③海洋調査権 を持つ。


(3) 世界の排他的経済水域面積

 日本の国土(領土)面積は38万K㎡世界の60番目であるが、排他的経済水域面積は447万K㎡、これは世界6番目である。
 日本は小さな国であるが、海ということを考えると世界で6番目の大きい国といえる。


(4) 日本の最北端 択捉島

①北方領土の現状 国後島・択捉島レポート

 今の国境線は、ウルップ島と択捉島の間に引かれているというのが日本の主張である。
1855年(安政5年)の日露通行条約(下田条約)が根拠になっている。
 1875年に樺太と千島列島の交換があり、千島は全部が日本のものになり、1905年ポーツマス条約でサハリンの半分が日本に組み入れられた。

 現在、北方領土(四島)がどうなっているかというと、戦後ソ連が南下して武力支配し、1945年まで住んでいた17,291人の日本人は、1948年までに日本に戻され、現在ロシアが実効支配している。

②かに籠漁船銃撃事件(第31吉進丸)

 昨年8月16日の事件は、起こるべくして起こった事件である。
ロシアはかつて市場経済導入後、経済的に苦しい時期があったが、今では石油の高騰によって資金が潤沢になり、いま北方領土に投資しようとしている。クリル社会経済発展計画で、ロシア政府が2006年8月4日に発表した。2015年までに179億ルーブル(約760億円)の政府予算を投入し、北方領土も含む千島列島の開発に着手した。 その一環として漁業管理にのりだし、密魚の取締りを強化している。

 昨年1~7月には60隻の漁船(ロシアの)がだ捕され、うち9隻は銃撃している。そういった情報はすでにあったし、北海道庁への警告は漁協へも届いていた。第31吉進丸の行為は、お盆で警備が手薄である間隙をついた限界を超えた行為で、地元の同業者からも同情が得られていない。

③クリル社会経済発展計画

 このクリル社会経済発展計画は、北方領土返還交渉と大きなかかわりがある。択捉、国後、色丹には漁業水産加工工場がなどの産業が興り、土地の個人所有も始まっている。そうやすやすと返還交渉に乗ってくるか?日本が政治の都合で返還は二島か四島かと議論をしている間に、ロシアはどんどん進んでいる。「二島だったら返えす・・・」といったロシアも、今では言葉を翻している。

 相手の開発のスピードに合わせて、日本は何をしていくべきか。四島には今14,000人のロシア人が住んでいる。それに引きかえ四島出身の日本人は8,000人を切ってしまった。14,000人のロシア人が住む四島をどうして返してもらうのか?一段と難しい計画と交渉が必要である。

 もう一つ大事なことは、世界のフィールドで交渉する時に、なぜ日本のものであるのかという主張と同時に、なぜ日本が必要としているのかを説明できないと納得してもらえない。政府・外務省は、日本は昔から魚類を主な蛋白源として生きてきたことなどをもう少し勉強し、国民が納得して賛同できるもので提示していかねばならない。さもなければ、このままずるずると還ってこないままになる。

④北方領土解決の糸口

 今、ロシアではサハリン、択捉の方で、ガス油田の開発が進んでいる。それの買い手として日本はロシアから期待されている。将来、何らかの接点をもってくるだろう。また、北方領土周辺海域で捕った魚も、ロシアは日本を売却先に期待している。それらも踏まえ、経済情勢に合わせて日本は交渉していくべきである。実情を明確に把握し、冷静に分析して交渉に臨む必要がある。


(5) 緊張の海、対馬海峡

 昨今、時々話題になる対馬は日本の国境の最前線である。日本と韓国との歴史的な関係は根深い。また、いま韓国や中国からの漂着ごみが問題になっている。もっと問題なのは、対馬海流の下にあたる中国から漂着する医療廃棄物である。これは九州北西部の浜でも見られる。

 もうひとつは韓国からの旅行者の急増である。42,000人も来ている。韓国の釜山からは49.5km、フェリーで往復6,000円のディスカウントチケットが売られている。何をするかといえば登山。山といっても5~600mの山だが、開発されていない自然林の信仰の山に踏み入り、自然を満喫して帰る。

 二番目の人気は釣り。アワビやサザエを勝手に取って帰り、漁民とのトラブルになっている。
旅行者の2割は日帰りのショッピング。釜山を出国するときに酒・タバコなどの免税品を買って乗船し、対馬の港で買い取り業者に引き渡す。売買目的であるから厳密には密輸に当たるが、税関が人手不足でチェックできていない。同様に覚せい剤などが持ち込まれていないか不安視される。

 過疎の地で年間10億円落としてくれる韓国人旅行者。今後、どういう形で韓国人旅行者を受け入れ付き合っていくか?これからの課題である。


(6) 竹島問題、尖閣諸島問題

 竹島は1905年に日本が正式に領有したが、韓国が漁業専管水域として李承晩ラインを一方的に宣言し、ラインの内に竹島を入れた。1952年以降、韓国が実効支配している。残念ながら日本が支配した期間より韓国が実効支配している期間のほうが長くなった。かつ、いま韓国はここに要塞ののような海洋警察庁の基地を作って警備員を常駐ささている。実際に使っているということは、権利として非常に強くなる。

 かつて日本は竹島の領有権について、国際司法裁判所に提訴したいと韓国に申し入れたが拒否された。(両国が合意しないと提訴できない制度)

 今や韓国は先進国の仲間入りを果たし一等国になり、国連事務総長を出すまでになった。今なら国際司法裁判所での審判に同意するかも知れない。

 尖閣諸島は明らかに日本のものである。アメリカが信託統治し、返してもらったもの。なぜ急に領土問題になったかというと、1968年国連アジア統治委員会が調査した翌年、その海域に石油があることがわかったからである。その埋蔵量は、イラク油田に匹敵する量、700~1600億バレルといわれている。

 1971年、台湾と中国が相次いで領有権を主張し始めた。しかし台湾の指導者 李登輝は冷静な判断で、尖閣諸島は沖縄のものであって、沖縄は日本であるから日本の一部であると明言している。

 東シナ海では、これから共同開発が進んでいくことになるだろう。


(7) 日本の最南端  沖ノ烏島

 沖ノ鳥島は東京から南へ約1730km、1968年小笠原とともに米国から返還された。高潮時に水面からわずか16cm頭を出した島である。しかし、(2)の図にもあるように、この島は40万K㎡の排他的経済水域をもっており、その海底にはニッケル、マンガン、コバルトなどの資源が眠っている。また鰻やマグロが南の海域から上ってくる通り道でもある。

 国連海洋法条約第121条で「島」の制度は、
1.「島とは自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう」
3.「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することの出来ない岩は、排他的経済水域を有しない」
とされている。


 この島もしくは岩が日本の領土であり続けるために、1987年、285億円かけて鉄製の消波ブロックとコンクリートによる保全工事を行った。また1999年、海岸法改正により国の管理とし、東小島に8億円かけてチタン製のネットをかけた。

また、「経済的生活・・・」を充たすために、灯台を建設し今年3月から光を出している。また、サンゴ礁を人工的に培養して島を復活させようとしている。
早急に世界中の海国に、日本の領土であることを明示しなければならない。

2. 日本の海洋政策

 これまで日本の海洋政策は、海上保安庁、海上自衛隊、国土交通省、環境省、外務省などばらばらに分散していて一元化されていなかったが、この4月に海洋基本法が成立し、7月20日に施行される。

 この海洋基本法は、日本の海を有効に利用して私たちの子どもや孫の代も、日本人が平和に豊かに暮らしていくために、海を使っていこうじゃないか という法律である。
海洋大臣の任命、海洋基本計画の策定、総合海洋政策本部(総理大臣が本部長)の設置によって、日本の海洋政策が一元化されることになった。

 もう一つ、海洋構築安全水域設定法もできた。東シナ海の油田開発が行われたときに、掘削が始まったら500m以内に勝手に入ってはいけないという法律。

                 

 北方領土、尖閣諸島、沖ノ鳥島、韓国との問題など、どれをとってもそんなに悠長にしてはおれない。日本は今、本格的に海の利用をしていかなければならない時機であろう。



6月 講演の舞台活花


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