平成16年度
熟年大学
第5回

一般教養公開講座
於:SAYAKA小ホール
平成16年10月21日

「日本語を考える」
 〜 若者から大人まで 〜




講師
梅花女子大学
教授
米川 明彦氏

                   
「言葉の乱れ」について、実例を挙げながら、若者の言葉に限ったことでなく、大人の言葉にも多くあることを指摘し、かつ歴史的に繰り返されていることを述べる。また、現在の言葉の問題を考える。

 
                     講演の要旨


1.言葉の乱れの意識
文化庁の調査によると「現代の日本語は乱れている」と80%の人が感じている。しかし若者は乱れているとは感じていない。高齢者に乱れていると感じている人が多い。
ところが2003年の調査では80%だが、その2002年の調査よりも乱れていると感じている人が減っている。乱れていると感じていた言葉が余りにも一般化したため、乱れと思わなくなった言葉があると言うことである。言葉というのはその時は乱れていると感じた言葉が10年、20年と経つと乱れていると感じる人が減っていくのである。

2.若者の言葉
若者の言葉の特徴は
@仲間内の狭い言葉・・・・気楽な相手との楽しい言葉のやりとり(会話を楽しむ)
A娯楽・会話促進などのための言葉・・会話の「ノリ」、娯楽の手段
B言葉の規範からの自由と遊び・・・きまりよりも楽しければよい、常に笑いがある
女の子の会話には、男の子に比べて笑いがあり、楽しくしゃべっている。「若者言葉」というのは基本的には「女の子の言葉」と言ってもいいと思う。

言葉の乱れの槍玉にあげられる人たちの言葉、「若者言葉」はどのような言葉であるのか以下に実例を紹介する。

言葉の造られ方
  ・省略した言葉
      きもい⇒気持ち悪い  オールする⇒オールナイトから徹夜する(遊ぶ)  
      あけおめ⇒明けましておめでとう  リーマン⇒サラリーマン ・・・
  ・省略語に「る」を付ける
      オケる⇒カラオケに行く  マクる⇒マクドナルドに行く・・・・
  ・「てるてる」言葉(状態を表す)
      終わってる⇒もうだめだ  親父入ってる⇒親父くさい・・・
  ・倒置語
      ボンビー⇒貧乏  グラサン⇒サングラス・・・
  ・名詞化・・・人を表す「ラー」を付ける
      シャネラー⇒ブランド品のシャネルばかり着けている人 オイラー⇒脂ぎっている人
  ・転義 意味を変える
      痛い⇒変な人   てっぺん⇒12時   へこむ⇒落ち込んでいる・・・
若者言葉は結局面白い言葉、人をからかった言葉、おしゃべりの言葉、遊びの言葉、楽しい言葉であり、仲間内で話すには問題は無いのである。

話し方
   ・「〜じゃないですかあ」共感、同意を求める、潤滑油、後にくる情報が大切、逆になっている。 
      「私って夜歯を磨くじゃないですかあ」
      「先生、私の家って、ジャスコの近くにあるじゃないですかあ」
   ・わたし的(俺的)には
      「先生的には・・・」 「会社的には・・・」 「僕的には・・・」
   ・「タメグチ」同等の口のきき方をする、自分が楽な話方で話す、自己中心。
      「あんな〜、先生なあ」 「先生、食べたあ〜」
   ・「〜とか」「〜みたいな」、はっきりしない、逃げ道を作る、ぼかす。
   ・「なにげなく」⇒「なにげに」、「さりげなく」⇒「さりげに」
   ・「チョー」「メッチャ」
      関東は「チョー」、関西は「メッチャ」
   ・「かなり〜」「ゲキ」「オニ」ー強調語
      「オニカワ」⇒非常にかわいい、
   ・半疑問
      「私〜?昨日〜? 梅田〜?」ぶつぶつ切って話しをする。
若者だけでなく、60歳以上の人も使っている。上の世代に移っていく傾向ある。言葉は伝染する。孫があるおばあさんにうつることが多い。男性は余り使わない。

背景 このような言葉はどのような背景で生まれるのか。
   ・青年期心理
     若者はしばられることをきらう。言葉を自由に使いたい。 変えてみたい。
     何時の時代でも同じことである。身体の成長が著しいので体を気にして、
     優越感や劣等感を持つ。また仲間を求める。。
     
しかし以下の背景は現在の時代特有のものである。
   ・楽社会ー「ラク」と「たのしみ」を求める。
     楽が優先される、真面目が崩壊した社会、ちょっとふざけた者がうける。
     きついことを避ける、楽しいことが優先される社会。
   ・自己中心主義
     ボーダーレス社会、何でもあり社会、自分中心にことを進める社会。
     「ジベタリアン」⇒地べたに座る、人の迷惑を考えない。
   ・聞くことを忘れた社会
     自己中心社会、話題を全部自分の方に持っていく人が多い。
                   
3.大人の言葉
若者だけでなく、大人たちの言葉にもまちがいが多い。

   ・意味の誤り
    2003年の文化庁調査
     「流れに掉さす」 正解⇒「時流に乗って物事が順調に進むこと」  
                                          正解率12.4%
     「役不足」     正解⇒「能力・力量に比べて役目が軽すぎること」
                                          正解率27.6%
    2004年の文化庁調査
     「姑息」   正解⇒「一時しのぎ」    「ひきょうな」と誤解         
                                          正解率12.5%
     「さわり」  正解⇒「話などの要点」  「話などの最初の部分」と誤解 
                                          正解率31.1%
   ・用法の誤り
    「さ」入れ言葉  発生源は関西、謙譲の度合いの高い商業用語
     「あしたは休まさせていただきます」 

    「から」、「ほう」 「〜でよろしかったでしょうか」「〜になりまーす」 
     コンビニ、レストランなどでよく使われる。
    「千円からお預かりします」、
    「お席のほう、ご用意できました」(あほう症候群)
    「お皿のほう片付けてもよろしかったでしょうか」 「840円になりまーす」

    現在使われている「腑に落ちない」は、以前「腑に落ちる」が一般的であった。

    「他人事」は「たにんごと」ではなく、「ひとごと」と読むのが正しい。 

   ・語形の誤り
     「間髪を入れず」    「かん・はつをいれる」と読むのが正しい。
     「大地震」         「おおじしん」と読むのが正しい。
     「御用達」         「ごようたし」と読むのが正しい。
     「飛ぶ鳥あとを濁さず」 「立つ鳥・・・・」が正しい。
     「的を得る」        「的を射る」が正しい。

    ・乱用    
     「立ち上げる」 、なんでも「お」を付ける、「〜したいと思います」
                    
4.言葉の変化
言葉は生きていて変化する。だれが使ってもいいのであって、言語学者だけが使うのではない。どんどん変わるものである。
例  「とても」  大正時代までは否定形を伴っていた。「とても綺麗」などは非難された。    
    「全然」   明治時代は肯定的に使っていた。
多勢に無勢、まちがった言葉も許容、寛容されてしまうのである。

5.声に出していけない日本語
これだけは言って欲しくない言葉、しかし言葉は変わるのである。(最後の抵抗)
例 「〜じゃないですかあ」 「わたし的には」「〜でよろしかったでしょうか」・・・・・                 


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