平成16年度
熟年大学
第10回
一般教養公開講座
於:SAYAKA小ホール
平成17年3月17日
今どきの放射線医療
〜がんのPET診断と治療〜
講師
近畿大学医学部放射線医学教室
細野 眞 氏
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1..放射線医学から画像医学への流れ @放射線の医療への利用 ・放射線診断・核医学 ・癌などの放射線治療 ・注射器などの医療機材の放射線滅菌 A放射線・放射性物質の発見から1世紀が経過した。 ウイルヘルム・C・レントゲン(1845-1923) 1895年ドイツ・ヴィルツブルクにて、真空管のなかで電気を放電させる実験を行って いたレントゲンは、偶然、目には見えない不思議な光線を見つけ、X線と名付けた。 アントワーヌ・アンリ・ベクレル(1852-1908) 1896年フランス・パリにて、ウラニウムから放射線が発生し、写真乾板を露光させることを発見した。 その後世界各地に医療に放射線を利用することが広まった。レントゲンが放射線を発見した約10ヶ月 後、日本でも島津製作所の創業者島津源蔵が放射線を発生する器具を作ることに成功した。 B放射線検査の発達 放射線の被曝量をいかにして減らすかという研究が続けられている。また最近は従来のフィルムに感光させる方法から、コンピューターによる画像記録に変わってきている。 通常よく用いられる放射線検査の例 では、 ・X線撮影、透視 ・CT(コンピューター断層撮影) ・核医学診断(放射性同位元素を用いた診断) がある。 放射線を使わない画像検査 では、 ・超音波、MRI(磁気共鳴現象による画像) があり、脳、脊髄、関節等の診断に有用で、最近は血管の撮影に効果を発揮している。その他肝臓など高度な診断に使われている。 2.癌の新しい診断:PET(Positron Emission Tomography:陽電子断層撮影) PETとは陽電子(ポジトロン)を用いた核医学診断をいう。 癌の診断にFDG(F-18 標識フルオロデオキシグルコース、ブドウ糖の類似物質)が有用であることが今から約25年前に発見された。なぜなら癌は多くの場合、甘いものが好きであるから。 フッ素18放射性同位元素と結びついたFDG(F-18)を投与すると、癌細胞がそれを取り込むために、癌の箇所を発見することができる。 肺癌、食道癌などの早期発見に有用で、その他癌だけでなく、心筋梗塞などの評価にも大きな効果を発揮、更に認知症、特にアルツハイマーの早期診断にも役立っている。 平成14年春からPET検査が一部健康保険がきくようになっている。(てんかん、心筋梗塞、10種類の癌など計12項目) しかし 現在はPETを使った人間ドックは健康保険は利かないので、10数万円の自己負担が必要となっている。 近畿大学では現在、高度先端総合医療センター(PET診断部門)を建設中で、平成17年10月にオープン予定である。 PETにより高い診断を行い、レベルの高い治療に直結させようと考えている。 設備としては、 ・サイクロトロン=フッ素18放射性同位元素を製造する ・薬剤合成室=FDG(F-18標識フルオロデオキシグルコース)とフッ素18放射性同 位元素を結合させる設備 ・PET/CT撮影装置biograph=PET画像とCT画像を撮影し、精度の高い診断を行う 解剖学的な画像が撮れる などが用意されている。 3.新しい放射線治療 @定位放射線照射 主として脳腫瘍、脊髄腫瘍、動静脈奇形 局所制御にとても有用である。放射線治療装置(リニアック、ガンマナイフ)を用いて通常one-shot、ミリ単位で照射する。 AIMRT(Intensity Modulated Radiation Therapy) 強度変調放射線治療体の周囲を、放射線ガントリーが回転しながら照射野の形を変えて、最適な線量分布を得ることができ、癌病変に絞って高い線量を与え、出来るだけ正常組織の線量は低くとどめることができる。 例 前立腺癌 腸管、膀胱の線量を下げる 前頚部癌 正常粘膜、唾液腺、頚髄の線量を下げる B核医学治療 放射性同位元素を体に投与して治療する方法である。 ・I-131(放射性ヨード)による甲状腺癌の治療 甲状腺ホルモンはヨードを取り入れて作ることを利用して、放射性ヨードをカプセルで投与して各部に転移した癌を小さくする ・放射免疫治療 モノクローナル抗体を放射性同位元素に結合させて、癌に選択的に照射して治療する 例 ZeValin 悪性リンパ腫の放射免疫治療に用いられるモノクロナール抗体 ・骨転移移疼痛緩和 癌の骨転移(前立腺癌、乳癌)は痛みが強いので、 これを和らげて日常生活を穏やかに送れるようにする。放射性同位元素が骨の病変部に集まって治療する。 まもなく日本でも採用されることとなる C病院での検査などによる放射線被爆の影響について 結論から言うと、病院での検査などによる放射線被曝は癌の発生などの問題がない。むしろ放射線検査を受けて、正しい治療をした方が便益は大きい。 病院での被曝は患者と医療従事者が対象になる。医療従事者は被曝量を常に把握している。例えば患者がどれくらい被曝するかの一例として胸のレントゲンを撮った場合、0.1ミリシーべルトの被曝量となる。一年間我々浴びる自然放射線量は2ミリシーべルトであるから問題にならない。CTの場合は25ミリシーベルトで少し多い。また妊娠している場合はどうかというと、不要不急な場合は避けることが大原則であるが、100ミリシーベルト以下では、胎児に影響ないとわかっているので、いずれにしても健康保持のため必要であれば受診したほうが良いと言える。 4.放射線医療のあり方 PETなどハイテク機器を使うのは人間である。運用にあたり次のことが重要である。 1.医療従事者の間のコミュニケーション 2.医療従事者と患者間の良きコミュニケーションを保つこと及び信頼関係を築く。 本日のまとめとして「人の和を広げましょう」に尽きるかと思う。 |
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