平成14度
熟年大学
第三回
一般教養公開講座
於:Sayaka小ホール
平成14年7月18日
【持株会社解禁と日本経済】
〜企業統治の国際比較〜
講師
京都大学大学院経済学研究科・経済学部助教授
東京大学社会科学研究所助教授
曳野 孝 氏
日本経済が好調であった1980年代においては、日本の経済と経営のシステム一般に関する国際的な評価はきわめて高かったのです。 専門経営者が外部の金融資本市場からのノイズによって左右されることなく、企業、産業、そして経済の安定成長を目指して、長期的な視野から生産的投資を継続していると理解されていました。 すなわち、しばしば純粋持株会社によって、金融的に生産子会社がコントロールされるアメリカの仕組みとは異なり、日本の企業はその親会社が持株会社であっても、事業持株会社であり、その意味で子会社に対するコントロールは短期の金融的利害を優先させるシステムではなく、長期の生産的利益にコミットしたものであるとされまていました。 さらに、日本の企業集団は、ワンセット主義、相互所有の相互支配といわれたシステムを持ち、その意味でその中で、間接金融は都市銀行に、原材料の調達と製品の海外販売は、総合商社というように分業化がなされ、個々の企業はその専門分野の生産的投資に特化する大きな要因だと指摘されていました。 日本の経済は、その結果として技術開能力を蓄積し、そのレベルはアメリカに追いつくか、或いは21世紀にはそれを凌駕するとさえ吹聴されたほどです。 当時のアメリカ経済は、マクロ経済、ミクロ経済両方にわたって、多大な問題を抱えており、この背景では確かに日本経済が、アメリカ的な市場経済に代わる新しい経済成長のモデルとして、もてはやされていたのです。 皮肉なことに日本経済、アメリカ経済とも、現実の経済システムはそれほどの変容を遂げていませんが、それらに対する評価はほぼ完全に逆転しています。 金融資本市場からのモニタリングのない企業経営は、モラルハザードを生み出し、結末として産業企業の業績不振と金融機関の行き詰まりを顕著にさせました。 かっては短期的な投資行動に結びつくといわれたアメリカ的な企業統治のシステムは、いまや国際的なモデルとして日本、ヨーロッパにまで普及し始めています。 一方、日本では、経済と経営のアメリカ化が進み、例えば六大企業集団が四大企業集団へと再編成される過程で、その中心となる金融機関がすべて純粋持株会社をトップとする新しい形態、即ちアメリカ的なモデルへと移行しています。 この講演では、このような各国の経済成長の要となる産業企業が、どのように金融資本市場と結びつき、どのような会社組織形態をとることによって、とくに日本とアメリカの経済成果の際に結びついたかを、長期的な視野にたって 1. 持株会社と企業統治 2. 日本経済、企業統治、そして持株会社 3. アメリカ経済、企業統治、そして持株会社 4. 持株会社と日本企業の将来 についての話をしました。 |
今回も受講生からの質問が 多数ありましたのでご紹介します。 |
曳野氏の応答 | |
質問1 |
1990年の第四四半期から不動産価格が低下し始めた。そこから12年、政府の発表はいつも底を打ったとか言われてきたが、彼が底を突いたといった途端に円が115円になると言うわけ。 あれを言わなかったら、多分130〜125円位で推移していた。 なぜ国際社会に出かけて発言したのだろうか。 逆に本当に曲がり角に来ていた日本経済が、駄目になるのではとの思いもある。 今日お話したミクロ、つまり企業産業の競争力と言うものを、どの様に快復して行こうかの議論が必要だと思う。 日本企業の技術力は潜在的にある。しかし今それを活かせるだけの経済力はない。研究開発は研究のところだけでは駄目であって、実際にそれを作って商品化しなければならない。これに時間と費用がかかる。 ところが今その金が無いのです。80年代には技術投資は出来たが、90年代の肝心の時に、研究はやったが開発が出来なかった。従って投資はしたけど、それだけの経済効果を生み出すだけの投資には至っていない。 早く景気を快復して、企業の業績を改めない限り、長期的に日本経済は、確実に低下するのみでありましょう。 日米の研究開発に対する投資比率は、極端に開いている。今はどんどん引き離されている状態で、今仮に日本経済の景気が快復しても、日本企業の競争力が快復するまでには凄い時間が掛かると思われる。
|
|
質問2 (質問の前半はマイク不在で聞き取れず) アメリカの高株価政策によって、エンロン等の破綻が出てきている。グリーンスパン氏は、この一週間以内にとてつもない破綻が出てくるだろうと発表していた。これは米国の高株価政策、即ち持株会社の問題に関連すると考えていいか?(男性) |
これは直接関連する。 最後に時間が無くてその問題だけ触れることが出来なかった。先ほどお話したように、それぞれの経営者にこれだけのインセンティブをつけて、会社が儲かれば貴方の給与も上がると言う形で経営を進めた場合には、必ずその問題は出る。優良企業が粉飾決算を含めていろいろな不正をやっている。 それは、経営者にとってみれば、利益を上げている限りは自分の所得が増えることになり、不正をしても、粉飾決算をしても、架空の利益を上げても自分の給与は上がる。ウオールストリートで騒がれる急成長した会社が、急成長が止まったとき、高 株価であっても、急に低下してしまう。 企業の経営者にとっては、株価が下がると言うことは、単に株主から圧力が来るだけでなく、自分の給与が直接下がるという意味で非常に問題になる。 優良企業が曲がり角に差し掛かったときに、どの様に企業を立て直そうかと言うより、会計的操作に頼るケースが当然でてくるシステムである。 それに対する有効な監視機能は未だない。しかしこれがアメリカの決定的な弱みだと判断することは、逆に日本から言うと危険である。これでアメリカ経済は駄目になり、日本経済は大丈夫だろう等、そんな簡単なものではない。アメリカ企業の国際競争力は上がることはあっても、低下することは無いだろう。 |